"長女にだけ渡された鍵" 第16話
それは、あのが自分たちので獄をいずり回り、父親の呪縛から自力でいがってきたに、私が決めることだ。
もう、私は誰の操り形でもない。 私のの主導権は、今、初めて私ののにあった。
私はの、度も振り返ることなく、駅へ向かって歩きした。
実をてから週、私は駅の側にある築の賃貸マンションで、きりの朝を迎えていた。
畳ひとのワンルーム。 具は、以のアパートから運び込んださなチェストと、ローテーブル、それに布団が組だけ。
朝に目が覚め、やかんの湯を沸かす。 スーパーで買った枚切りのパンをトースターに入れ、マグカップにインスタントコーヒーを注ぐ。
音が、何もしない。
仏壇の線の匂いも、父が咳払いをする音も、朝のにかかってくる「今のデイサービスの迎えは何だ」という話も、何もない。
、私ののを絶えなく占領していた「誰かのための予定」が、潮が引くように消えっていた。
最初の数は、で仕方がなかった。 買いしにかなくていいのか。 父の薬の残薬を確認しなくていいのか。 織が癇癪を起こして、健から泣きつきのLINEが入るのではないか。
だが、私のスマートフォンは沈黙を保っていた。 私はあの夜、実のグループLINEを退会し、の番号を着信拒否にはしなかったものの、通をすべて切った。
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誰からも求められないという事実は、最初、底の抜けた呂に浸かっているような寒気を私に与えた。 鳥籠の扉をけ放たれた鳥は、すぐに青空へびてるわけではない。 止まりので、たいに震えながら、ただ羽をすくませているだけなのだ。
それでも、週が経つ頃には、しずつ変化が訪れていた。 朝、自分で焼いたパンの焦げた匂いを、美しいとじられるようになった。 役所の共済組のデスクで、定にタイムカードを押した、誰の夕飯の配もせずにドラッグストアにち寄れることの贅沢さに、胸の奥がじんわりと温かくなった。
私はもう、誰かの母親代わりではない。 しっかり者の女でもない。 ただの、万円の、歳の独女性だった。
それで分だった。
――そうっていた、曜の午のことだった。
控えめな、ためらうようなノックの音が、い玄関ドアを叩いた。
トントン。
チャイムを押す勇気すらないような、さな打鍵音。 私はアイロンのを止め、そっとドアスコープを覗き込んだ。
魚レンズの向こうにっていたのは、の男女だった。
私は息を呑み、ドアのチェーンをかけたまま、扉をセンチだけけた。
「……何の用?」
私のたい声に、にいたがびくりと肩をねさせた。
そこにっていたのは、週とはまるで別のようになった弟と妹だった。
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健は、あの仕てのいい濃紺のスーツを脱ぎ捨てていた。 どこにでもある量販のヨレたパーカーに、褪せたチノパン。髪には入れされていない髪が目ち、無精髭が顎を覆っている。猫背になったその姿には、京のオフィスで巨額の予算をかしていたエリートの面はどこにもなかった。
織は、胸元まであったい黒髪を、素がハサミを入れたように揃いなボブに切り落としていた。 化粧気のない顔にはい隈が刻まれ、以なら絶対にになかったであろう、毛玉のついたカーディガンを着ている。
とも、さく、縮こまっていた。
「……朋美姉さん」 健が掠れた声で言った。 線を私の顔にわせられず、ドアの隙から覗く私の元を見つめている。
「おの無なら、円もさないわよ」 私は淡々と言った。 「須藤建設の期は昨だったはずね。を取られたの?」
「いや……」 健が首を横に振った。 「須藤のところには、でをげにった。事を話して……ち退き補償の続きの委任状を見せて、来まで待ってもらった。法テラスの弁護士にも相談して、正式に返済計画を作ったよ」
「……そう」
「姉さん、入れてくれないか」 健が、懇願するように言った。 「頼みがあって来たんじゃない。……これを、で見なきゃいけないとって持ってきたんだ」