"長女にだけ渡された鍵" 第10話
織も、肩を震わせて泣き崩れた。 醜い真実をすべて吐きし、ようやくこの悪から抜けせる――そうった、そのだった。
ピンポーン、と。
壊れかけた玄関のチャイムが、違いなほど甲く鳴り響いた。 続いて、ドンドンと、引き戸を激しく叩く音が響く。
「ごめんください! 宮本さん! いらっしゃいますね!」
粗野で、どこか威圧な男の声だった。
私たちは、息を呑んで顔を見わせた。 親戚の声ではない。所のでもない。
私は涙を拭い、い取りで玄関へ向かった。 鍵をけて引き戸をしだけ引くと、そこには作業着のに黒い革ジャンを羽織った、がらみの恰幅のいい男がっていた。 名刺入れを片に持ち、鋭い目をギラつかせている。
「……どちら様ですか?」
男は私の顔を値踏みするように見つめると、枚の名刺を差ししてきた。 『須藤建設興業 代表取締役 須藤』とかれていた。
「女の朋美さんですね。親父さんのが終わるのを待たせてもらいましたよ」 須藤と名乗る男は、悪びれもせずにで玄関框にをかけた。
「何の用ですか? うちは建設会社に頼むような事は……」
「事じゃないですよ」 須藤は懐から、通の公正証の写しを取りし、私の目のに広げて見せた。
そこに印字されていた文字を見た瞬、私の全の血が凍りついた。
広告
『銭消費貸借兼抵当権設定契約』。
債務者――『宮本昭雄(父の名)』。 借入額――『百万円』。 担保物件――『所:〇〇〇〇町丁目……(この実のおよび建物)』。
「な……何ですか、これ」
「見れば分かるでしょう」 須藤はニヤリと品な笑みを浮かべた。 「親父さんがくなる、うちから事業資名目で引っ張った百万の借用ですよ。このとをカタに入れてね」
「嘘よ……父は公務員を退職して、事業なんてやってない!」
「事業なんてどうでもいいんですよ、さえ返してくれれば」 須藤は類を指で弾いた。 「契約にはね、この域帯の再発によるち退き補償がり次第、括返済する特約がついてる。来、から補償がこの座に振り込まれるはずだ。……もし来週末までに百万を揃えて返済できなきゃ、抵当権を実して、このとはうちが差し押さえます。法にね」
「ち退き補償……?」 背から、健と織が青ざめた顔で駆け寄ってきた。
「ちょっと待ってください! このがち退き対象なんて、俺たちは何も聞いてないぞ!」 健が叫ぶ。
「へえ、息子さんにも話してなかったんですか」 須藤は面そうに喉を鳴らした。 「親父さん、抜け目のないだったからねえ。役所の都計画課に昔のコネがあって、この帯が拡張でち退きになる報を誰よりもく掴んでたんだよ。
広告
補償はざっと千万円。……その千万を見越して、うちから百万借りしてたんですよ」
百万円。 父が、とを抵当に入れてまで借りた、百万円。
健の借穴埋めでもない。 織の介護当でもない。
父は、私たちにそれぞれ嘘を吐き、互いを憎みわせ、搾取しっているその裏で―― 誰にも言わず、を抵当に入れてまで、百万円ものを体何に使ったのか?
「来週の曜が期です。相続放棄するなら今のうちですよ。もっとも、放棄したら千万の補償もパーになりますがね。じゃあ、よろしく」
須藤は類を私の胸元に押し付けると、踵を返してっていった。
のに残された、百万円の借用。 たいが、け放たれた玄関から吹き込み、私たちの元を吹き抜けていく。
顔を見わせる私たちの誰も、声を発することができなかった。 父が仕掛けた本当のは、まだ半分も姿を現していなかったのだ。
須藤と名乗る男のがけたたましいエンジン音を残してった、玄関には耐え難い沈黙だけが残された。
私ののにある『銭消費貸借契約』の写しが、微かなに震えている。
借入額、百万円。 担保、この実のと建物。 返済期、来週の曜。
「……おい、朋美姉さん」
背から、く掠れた声がした。 振り返ると、健がに膝をついていた。
濃紺のスーツの膝が埃まみれになっているのも気にせず、焦点のわない目で私を見げている。