"長女にだけ渡された鍵" 第8話
「本当のことを言ってください。父がここで、私のことをどう話していたのか」
マスターはくため息をつき、周囲を気にするように声を潜めた。
「……気を悪くしないでくれよ。親父さん、酒が入るとが悪くなるだったからな」 彼は言いにくそうに、言葉を途切れ途切れに継いだ。
「『朋美は真面目すぎて面みがない』って、よく愚痴ってたよ。『融通が利かないし、説教くさい。女としての嬌がないから、過ぎても男に逃げられるんだ』って……。あと、『あいつは公務員で定してるから、放っておいても野垂れにはしない。飯の買いしと病院の送り迎えだけさせておけば分だ』ってな……」
ので、何かが音をてて弾けんだ。
指先がたく張り、グラスを持つがさく震えた。 氷がカランと乾いた音をてる。
『女としての嬌がない』 『説教くさい』 『買いしと送り迎えだけさせておけば分』
それが、父がに語っていた「番しっかりしている女」の、本当の評価だったのだ。
病で私のを握り、『おが番頼りになる』と涙ぐんでいた父の顔が、急速に褪せ、グロテスクな仮面のように歪んで見えた。 父は、私の真面目さと責任を利用していただけだった。 反論せず、文句も言わず、族のために尽くすことが美徳だと信じ込まされた「便利な召使い」
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として、私を飼い慣らしていたのだ。
「……朋美ちゃん? 丈夫かい? 顔が真っ青だよ」
「……いえ。丈夫です」 私は千円札をカウンターに置き、お釣りも受け取らずにちがった。 「ありがとうございました、マスター。父の本当の姿が、よく分かりました」
をると、昼がりのの差しが痛いほど眩しかった。 吐き気がした。 胃の腑を直接掴まれ、雑巾のように絞りげられるような烈な悪。
私はにび乗り、実へとアクセルを踏み込んだ。 りで界が赤く染まっていた。 もう「しっかり者の女」を演じるつもりなど、微もなかった。
実の玄関を乱暴にけると、廊の奥からテレビのワイドショーの音が聞こえてきた。 仏に入ると、健が座卓に突っ伏して眠っており、その傍らで織がアイロンがけをしていた。
「健、起きなさい!」
私の鳴り声に、健がね起き、織がアイロンを取り落としそうになった。
「な、何よ姉さん、いきなり……」
私は信用庫の取引細を、座卓のに叩きつけた。 バサリとの束がい、健の顔のに散らばる。
「健、これを見なさい」 私は彼を指差した。 「あんた、私の座から百万引きした、毎万円ずつ、父さんの座に仕送りしてたわね。通算で百万以。……どういうことなの? 借を親に肩代わりしてもらったのに、なんでそんなを毎実に送ってたのよ!」
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健の顔が、瞬で青ざめた。 彼は散らばった細を見つめ、震えるでを抱え込んだ。
「……言っただろ。親父に脅されてたんだよ」
「脅されてた?」
「そうだよ!」 健が叫び、座卓を拳で叩いた。 スーツの襟元から覗く首筋には、や汗が滲んでいた。
「親父はな、に俺がを借りたみを、ぬまで握り続けてたんだよ!『健、おが会社で役員になれるのは誰のおかげだ? 姉貴たちのを回してやった俺のおかげだろう。親戚の集まりがあるからを包め、今は見栄を張るためにしいスーツを買って持ってこい、仕送りを万入れろ』って……毎毎、話がかかってくるんだよ!」
健はポケットからさなピルケースを取りし、もまずに錠剤を粒、喉の奥へ放り込んだ。 抗薬のシートだった。
「俺の収ががったって、取りなんてたかがれてる。親父への仕送りと見栄のせいで、俺の貯はずっとゼロだったんだ! 先なんてカードローンで万借りて、親父の座に振り込んだんだぞ! 『おは優秀だ、このの柱だ』って言われるたびに、胃に穴が空きそうだった! でも、役員候補から滑り落ちたら親父に何を言われるか分からない、親戚に借のこと言いふらされるんじゃないかって……怖くて断れなかったんだよ!」
エリートの弟が、ボロボロと粒の涙をこぼしながら、畳に額を擦り付けていた。