"義母が突然、結婚指輪をくれた" 第21話
指先で、そっとその革に触れる。 驚くほど軽かった。 あの苦しい紋のランドセルとは比べ物にならないほど、柔らかく、温かみのある触だった。
このは、本当に変わったのだ。 あの傲な執着の殻を、自らの息子の遺言によって々に砕かれ、ようやくのに戻ったのだ。
私の胸のに渦巻いていた、のたいりと屈辱の澱が、の陽に溶かされるように、静かに消えていくのをじた。
復讐がしたかったわけではない。 義母を社会に破滅させたり、に迷わせたりすることが、私の望みではなかった。 私が欲しかったのは、ただつ。 娘が、誰の具にもならず、の尊厳あるとしてきていくための未来。 そして、亮介が命を懸けてしてくれた、私たちの族の真実を認めさせることだけだった。
私はゆっくりとしゃがみ込み、義母の震える肩に、そっとを置いた。
義母がハッと息を呑み、涙に濡れた顔をげた。
「……芳さん。顔をげてください」
私の声は、穏やかだった。
「亮介さんは、あなたをんでんでいったのではありません。もし本当にんでいたのなら、あんな類、にとっくに裁判所へ提して、あなたと絶縁していたはずです」
義母の瞳が、きく見かれた。
「亮介さんが最まで類をせなかったのは……病気のせいだけじゃありません。
広告
母親であるあなたを、これ以傷つけたくないという、亮介さんなりの最の優しさだったのだと、私はっています」
「亮介が……? 私を……?」
「ええ。亮介さんは、最まであなたの息子でした。ただ……自分の娘には、自分と同じ痛みを背負わせたくなかった。それだけなんです」
義母は元を両で覆い、子供のように声をげて泣き崩れた。 、誰にも見せることができなかった、の母親としての純粋な痛の涙だった。
私はちがり、葵のを引いて、義母のにたせた。
「葵。おばあちゃんに、お話しなさい」
葵は、に泣き伏す義母のに、トコトコと歩み寄った。 そして、さなを伸ばし、義母の乱れた髪混じりのを、ポン、ポンと優しく撫でた。
「おばあちゃん、なかないで」
義母が息を詰まらせて顔をげた。
「あおいね、パパのお写真にお願いしたの。『おばあちゃんが、いじわるじゃなくなりますように』って。……パパ、ちゃんとお話聞いてくれたね」
葵はそう言うと、義母が差ししていた袋から、赤いランドセルを自分で引っ張りした。 そして、それを自分のさな背に、ひょいと背負ってみせた。
「見て、おばあちゃん! すっごく軽いよ! あおい、これ好き!」
葵がくるりと回って見せると、ランドセルの桜のびらの具が、朝を浴びてキラリと輝いた。
広告
義母の目から、たな涙が溢れた。 しかし、それは先ほどまでの絶望の涙ではなかった。 救われた魂が流す、浄化の涙だった。
「……似うわ、葵ちゃん。本当に……よく似うわ……」
義母は震えるで目元を拭い、何度も、何度も頷いた。
その、役所のチャイムが、午を告げた。 正面の自ドアがゆっくりとき、民課の窓が業務を始した。
私はバッグから、クリアファイルを取りした。
「芳さん」
私は義母を見つめ、静かに言った。
「私はこれから、葵の姓を『野』に変更する続きをいます。……この子の名は、今から野葵になります。神崎の名を継ぐことは、度とありません」
義母はゆっくりとちがった。 取りはまだ覚束なかったが、その瞳には、先ほどまでの迷いも執着もなかった。 義母は自分のコートのポケットから、あののジュエリーケースを取りした。
昨夜、墓の砂利のに落ち、拾いげたの婚戒。 義母はそのケースをけ、傷だらけのプラチナの指輪を見つめた。
「……この指輪は、私が墓まで持っていきます」
義母の声は、く、しかし凛としていた。
「神崎のに嫁ぎ、名に縛られてきてきた、私のの証です。……あなたたちに背負わせるものでは、最初からなかったのね」
義母は指輪を自分のポケットの奥くへと仕い込み、私に向かって、々とをげた。
「奈緒さん。……葵ちゃんを、よろしくお願いします」
「神崎」の嫁としてではなく。