"義母が突然、結婚指輪をくれた" 第18話
あれほど傲に私を糾弾していた親族の「絆」など、メッキが剥がれればこの程度のものだったのだ。
墓に残されたのは、のに座り込んで嗚咽を漏らす義母と、私、そして葵だけだった。
私はテディベアを胸に抱き直すと、元に崩れ落ちている義母を見ろした。
、この域で「神崎の奥様」として君臨し、のを踏み躙り、実の息子すら息の詰まる檻に閉じ込めてきた女性の、れな残骸がそこにあった。
「芳さん」
私の徹な声に、義母がビクッと肩をねげ、涙とに塗れた顔をげた。
「亮介さんは、あなたをんでいたのではありません」
「……え?」
「亮介さんは、ただ、自分の娘を守りたかっただけです。あなたが名という霊に囚われて、自分をしてくれなかった痛みを、葵にだけはわせたくなかった。それだけだったんです」
義母の瞳の奥で、何かが激しく揺れていた。 息子の「み」ではなく、息子の「い絶望」を突きつけられたことで、彼女のの番柔らかい部分が、無残に抉り取られたのだ。
私はバッグから、庭裁判所の『子の氏の変更許申』の写しを取りし、義母の目のの砂利のに置いた。
「の朝、役所の戸籍課がきます」
私の言葉に、義母が息を呑む。
「学への学籍登録の最終変更期限は、の正午です。
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私は、葵の姓を『野』へと正式に変更し、しい名で学へ入学させます」
「な、奈緒さん……待って……お願いだから……」
義母が震えるを伸ばし、私の喪の裾を掴もうとした。 、夫の通夜の夜、私が彼女の元に縋り付こうとしてね除けられた、あの瞬と残酷なまでに対称な景だった。
だが、私はそのをたく払いのけることはしなかった。 ただ、静かに歩ずさりし、義母の目をまっすぐに見つめた。
「選択肢は、あなたにあります」
「……選択肢?」
「、役所に来るか来ないかは、あなたの自由です。もし、あなたが神崎という名を捨て、ただのの祖母として、野葵というをする覚悟があるのなら……入学式に、くからでも葵の姿を見に来ることを、私は拒みません」
義母が目を見いた。
「ですが、もしあなたが最まで『神崎の血脈』にこだわり、名の板を葵に背負わせようとするのなら――これが、あなたが葵の顔を見る最の瞬になります。度と、私たちのに現れないでください」
言い終えると、私は葵のをしっかりと握り締めた。
「こう、葵。パパにお別れを言って」
葵はのに落ちていたプラチナの指輪を瞥し、そして亮介の墓に向かって、々とをげた。
「パパ、ばいばい。あおい、ママと緒に、がんばるね」
さな、凛とした別れの言葉。
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私たちは背を向け、砂利を踏みしめて歩きした。
背から、義母の引き裂かれるような号泣が聞こえてきた。 たいが吹き抜け、線のを巻きげていく。 だが、私と葵は、度もろを振り返らなかった。
段をりる途、の切れから、筋の淡いの陽が射し込んできた。 たかったのに、ほんのしだけ、の匂いが混ざっていた。
、すべてが終わる。 そして、すべてが始まるのだ。
、曜の朝。
の空がみ始めた頃、私は目覚まし計が鳴るに目を覚ました。
築のアパートのいカーテンをけると、昨までのの嵐が嘘のように、どこまでも澄み切った青空が広がっていた。 たいの残滓はあるものの、くの並みを照らす朝は、確実にの体温を帯びていた。
布団ので丸くなって眠る葵の顔を覗き込む。 規則正しいさな寝息。 昨の墓で、全を震わせながら母親を庇い、あの歳とはえない叫びを放った娘は、今はただの、どこにでもいる無防備な幼子に戻っていた。
私は音をてないように台所へき、やかんにをかけた。
卓のには、昨夜のうちにえておいたクリアファイルが置かれている。 庭裁判所から事に取り寄せていた許審判の類、私の戸籍謄本、そして、役所の民課に提するための『入籍届』。
姓を改める。 それは単なる文字のき換えではない。 亮介が病で命を削って遺してくれた「盾」