"義母が突然、結婚指輪をくれた" 第9話
「何とか、できています。来には、葵も学になります」
「そうか、もうか……。亮介がきていたら、どれほどんだか」
運ばれてきたコーヒーをすすり、私はを決して、バッグからつ折りにしたあの類を取りした。 テーブルのに、亮介の直が並ぶ『子の氏の変更許申』を広げる。
武田さんの線が、その類に落ちた。 その瞬、彼の目が見かれ、微かに息を呑んだのを私は見逃さなかった。
「……これ、見つけられたんですね」
「っていたのですね、武田さん」
私の声が震えた。
「亮介さんは、私に何も言いませんでした。くなる週、病ででこれをいていたんです。なぜですか? なぜ亮介さんは、自分の姓を……神崎の名を、葵から奪おうとしたのですか? 余に、母さんには絶対にらせるなといてありました。亮介さんとお義母様のには、体何があったのですか」
武田さんはカップを握るを止め、く、いため息をついた。 窓のをき交う々をしばらく見つめた、彼は静かにをいた。
「奈緒さん。亮介がくなる、あなたに言わなかったのは、あなたを仲れにしたかったからじゃない。あなたに、あののドロドロとした呪いを背負わせたくなかったからです」
「呪い……?」
「亮介はね、ずっと神崎という名に殺されかけてきてきた男なんですよ」
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武田さんのから語られたのは、妻である私すららなかった、夫の壮絶な半だった。
亮介の父親――つまり義父が代の若さで界して以来、母親の芳にとって、男である亮介は単なる息子ではなく「神崎のを続させ、世に誇示するための神輿」だったという。 本当は学院にみ、最先端のバイオテクノロジーの研究者になりたかった亮介のを、義母は「男が業を継がずに何をするのか」「神崎の名を絶やす気か」と泣き叫び、ヒステリーを起こして叩き潰した。
「あいつ、学の研究のロッカーので、で泣いていましたよ。『俺には、自分のを選ぶ権利すらないんだ』って。それでもあいつは優しすぎた。母さんをにできない、自分がすればが丸く収まるんだと、を諦めて元に戻り、あの産管理の業を継いだんです」
喉の奥が詰まるような苦しさがこみげてきた。 亮介の斎に、古い学術雑誌や英語の論文が几帳面に並べられていた理由が、今になって胸に突き刺さる。 彼は、諦めたの残骸を、あのたい敷の片隅でずっと抱きしめていたのだ。
「亮介が病気で倒れた、あいつ、真っ先に俺を病院に呼んだんです」
武田さんの声が、微かに掠れた。
「病名が分かり、もうくないと悟った、あいつがベッドので俺のを握って言った言葉が、今でもかられません。
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『武田、俺は母さんのためにぬんじゃない。奈緒と葵のためにきたかった』って」
「亮介さん……」
「そして、あいつは言ったんです。『俺がんだら、母さんは絶対に葵を次の神崎に仕てげる。俺が母さんの敷いたレールので息を殺してきてきたように、今度は葵の首に神崎という首輪を嵌めて、跡取りとして自分の元に囲い込もうとするはずだ。葵には、あんな獄をわわせたくない。俺の代で、この呪いを終わらせなきゃいけないんだ』と」
武田さんは目を赤く腫らし、テーブルのの申を指先で叩いた。
「あいつはね、奈緒さん。あなたと葵ちゃんをからしていたからこそ、自分の、あなたが実の野の姓に戻り、葵ちゃんも野として、誰の顔も窺わずに、自由にきていけるを用しようとしたんです。でも、申しての続きを弁護士とめている最に容体が急変して……最まで提できなかったことを、あいつは識が混濁するで、何度も悔やんでいました」
界が、涙で完全にぼやけた。
そうだったのだ。 亮介は、酷な母親の性質を誰よりもっていた。 自分がねば、義母は嫁である私を容赦なく切り捨て、孫である葵だけを「神崎の血脈」という具として執着し始めることを、予見していたのだ。
だからこそ、彼は自分の命の灯が消えかけるその瞬まで、娘を神崎の檻から逃がすための鍵を必に削りそうとしていた。