"義母が突然、結婚指輪をくれた" 第2話
私の拒絶の言葉を遮るように、義母はコートのポケットからさな正方形の箱を取りした。 の品な別珍で覆われた、のみをじさせるジュエリーケースだった。
義母はそのケースの蓋を、震える指先でゆっくりと押しけた。
に収まっていたのは、本のプラチナの指輪だった。 表面には無数の細かな傷が刻まれ、央のさなメレダイヤが、夕暮れのを受けて鈍くっている。 見覚えがあった。 義母が、義父と結婚したから片もさず、自げにの薬指に嵌め続けていた「神崎の嫁の証」である婚戒だった。
「……これ、は」
私の声が引きつる。
「私の結婚指輪よ。神崎のに嫁いだ、あののお父様からいただいた、番切なもの」
義母はそう言うと、ケースから指輪をつまみげ、歩踏み込んできた。 ずさりしようとした私のを、義母のたく乾いた両がぎゅっと包み込んだ。 逃げようとしたが、その力は異様なほどかった。
「お義母さん、やめてください!」
「奈緒さん、本当にすまなかったとっているのよ」
義母の目から、ぽろぽろと粒の涙が零れ落ちた。 信じられない景だった。あの誇りく、度としてにをげたことのなかった義母が、アパートの汚れた玄関先で、涙を流している。
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「あのは……亮介を失ったショックで、私、どうかしていたの。息子どもを先に逝かせてしまって、正気を失っていたのよ。あなたにあんな酷いことを言って……本当に、どれほど悔したか」
義母の震える指が、私の薬指に、そのたい属を滑り込ませた。
カチリ、とい触が皮膚にい込む。 サイズは私の指にはしきかったが、指の付け根にずっしりとした異様なみがのしかかってきた。
「お義母さん、こんなもの受け取れません! 返します!」
「いいの。これは、あなたが持つべきものよ」
義母は私のをく握り締め、胸元へと引き寄せた。
「あなたは亮介が命を懸けてした妻で、神崎の切な嫁です。私は、毎仏壇のでをわせて、自分の愚かさを恥じていました。お願いだから、私を許してちょうだい」
涙に濡れたその顔は、まるで罪を悔いるれな老婆そのものに見えた。 だが、その言葉とは裏腹に、私のを握る義母の指先には、絶対に逃がさないという異様な執着がこもっていた。
玄関のすりガラスの向こうから、葵の「ママ、だれー?」という無邪気な声が聞こえた。
義母の目が、その声に反応してわずかに揺れた。
「……葵ちゃんも、元気そうね。もうすぐでしょう?」
「ええ、まあ……」
「の夜、神崎のにおいでなさい」
義母はすっと涙を拭うと、穏やかな、慈に満ちた笑みを浮かべた。
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その切り替えのさに、背筋にたいものがった。
「親戚の皆にも声をかけてあるの。私があなたに酷いことをしたと、皆ので正式に謝罪したいのよ。葵ちゃんの入学祝いの膳も用するわ。……族として、やり直しましょう」
「そんな、急に言われても困ります」
「お願いよ、奈緒さん。これが、老い先い私の、亮介へのせめてもの罪滅ぼしなの」
義母はくをげ、私の返事を待たずにを翻すと、に階段をりていった。
静まり返った玄関に、私は取り残された。
の薬指を見ろす。 分の活の傷が刻まれた、くたいプラチナの輪。 指に触れている部分が、まるで焼けるようにく、同に氷のようにたかった。
――なぜ?
疑問が、黒いのように胸の内にち込めた。
、度たりとも孫の否すら気遣わなかったが、なぜ突然、入学直のこのタイミングで現れ、肌さずにつけていた指輪を押し付けてきたのか。
本当に、ただの良の呵責なのだろうか。 老いた義母が孤独に耐えかねて、息子を失ったしみをようやく乗り越え、歩み寄ろうとしているのだろうか。
そうとして指輪を引っ張ったが、節に引っかかり、すぐには抜けなかった。 皮膚を赤く擦りむきながら、私は無理にすのをやめた。
翌の夕方、私は葵のを引いて、にてった神崎ののをくぐった。
かないという選択肢もあった。