"義母が突然、結婚指輪をくれた" 第1話
「あの子はもう、うちのじゃありませんから」
夫の亮介が歳の若さでくなったあの、通夜の会の隅で、義母の芳が親戚たちにそう言い放った声を、私は今でも昨のことのように覚えている。
のたいが、斎のガラス窓を激しく叩いていた。
まだ歳だった娘の葵は、何が起きているかも理解できず、私の喪の裾をさなで握りしめて震えていた。 闘病で痩せ細った亮介の遺ので、私は涙すらないほど憔悴しきっていた。 そんな私に向かって、義母は焼の列が途切れた瞬を見計らい、凍りつくようない声で囁いたのだ。
「息子がんだ以、あなたと神崎には何の縁もありません。跡取りも産めなかったに、これ以男のに居座られては迷惑です。……通夜が終わったら、葵ちゃんを連れてすぐにてってちょうだい」
涙ひとつ浮かべていない、徹な能面のような顔だった。
神崎はこの方で代続く旧で、義母にとって「男」である亮介は自の象徴であり、同に「神崎の名」を継がせるための絶対の柱だった。 無名の民企業の会社員に過ぎなかった私との結婚すら、義母は最まで底からは認めていなかった。 そして亮介が逝った瞬、義母にとっての私は、する息子を奪い、名を継ぐべき男児を産まなかった「役たずの部者」
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へと瞬で成りがったのだ。
その夜、私は夫の遺骨を抱くことすら許されず、わずかなの回り品だけをスーツケースに詰め、葵のを引いて神崎のをた。
それから、丸。
築の狭い2DKのアパートで、私は契約社員として働きながら、必に葵を育ててきた。 朝に起きて朝を作り、保育園へ送り、夕方までオフィスで働き、スーパーの見切り品を買って帰る。 夜、疲れ果てて眠る葵の寝顔を見つめながら、亮介の写真にをわせるのが唯の息抜きだった。
義母からは、この、話本、通届いたことはなかった。 養育費の支援はおろか、葵の歳の誕にも、正の挨拶にも、神崎は私たち母娘を完全に「しないもの」として扱ってきた。 所にむ共通のからは、義母があちこちで「あの嫁は息子の、挨拶にも来ない恩らずだ」「最初から神崎のではなかった」と吹聴しているという噂が嫌でもに入ってきた。
それでいい、とっていた。 どれほど活が苦しくても、あんな酷なとは縁が切れたのだと、自分に言い聞かせていた。 私と葵ので、誰にもをげずにきていく。それが、半ばで命を落とした亮介に対する私のでもあった。
その常が音をてて狂い始めたのは、葵の学入学を翌に控えた、初旬の夕暮れのことだった。
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インターホンが鳴った、私は台所で夕の肉じゃがを煮ていた。 葵は居のこたつで、買ってもらったばかりの自由帳に楽しそうに絵を描いていた。
宅配便だろうかとい、エプロンでを拭きながら玄関のドアをけた。
「……こんばんは、奈緒さん」
暗い共用廊の灯のにっていた物の顔を見た瞬、私の全の血が逆流した。
濃紺の質なウールコートにを包み、乱れひとつなくセットされた髪混じりの髪。 、夫の葬儀の夜に私をたく追いした張本、義母の芳だった。
息が止まりそうになった。臓がの奥でドクドクと警鐘を鳴らす。
「……お義母、さん?」
掠れた声しかなかった。 なぜ、この所が分かったのか。なぜ、も私たちをゴミのように切り捨てていたが、今さらがのにっているのか。 恐怖と警戒で、ドアノブを握る私の指先がくなるほど力が入った。
「急に押しかけて悪かったわね。し、話がしたくて」
義母の声は、記憶にあるあの刺々しいたさとはまるで違っていた。 どこか々しく、慮がちで、まるで娘に会いに来た寂しい母親のような、気なほどの柔らかさを帯びていた。
「何の御用でしょうか。葵はもうすぐご飯ですし、お義母様とお話しすることは何も……」
「これを受け取ってほしかったの」