"元妻の弟に渡した6万円と12年前の手紙" 第1話
午6、会社をるには、すでに空は暗くたいが垂れ込めていた。
気予報通りのたいが、容赦なくアスファルトを叩きつけている。
私は傘をき、駅へ向かって歩き始めた。
駅から私のむマンションまでは、歩いて15分ほどの距がある。
通りを避けて、いつも通る暗い駅裏の細いを歩いていたのことだった。
私は持っていた傘の柄をく握り直した。
傘を叩く音に混じって、属がこすれるような鈍い音が聞こえてきた。
線をに向けると、さな古びた台が目に入った。
段ボールが崩れないように、ビニール紐で何にも縛られている。
その横には、のついた空き缶が詰め込まれた透な袋がぶらがっていた。
台を押しているのは、くたびれた作業着を着た1の男だった。
私はになり、そのまま通り過ぎようとした。
の苦しい活を、好奇の目で見るような趣はない。
く温かい自分のマンションへ帰りたかった。
しかし、男が台の向きを変えようと顔をげた瞬、私のはかなくなった。
男も私に気づき、きを止めた。
濡れた髪の隙から、見覚えのある目が私を捉えていた。
12よりずっと老けている。
頬はこけ、髪にはいものが目っていた。
それでも違いない。
12に私を捨てた元妻、さおりの弟だった。
広告
名はてつやと言った。
私は目をきく見いたまま、彼の姿を見つめた。
てつや君の掠れた声が、音に消えそうになりながら私のに届いた。
「なつみさん」
てつや君はすぐに目をそらした。
くかぶっていた子をさらに引きげ、台の持ちをく握りしめている。
そのはひどく荒れていて、黒い汚れがこびりついていた。
私は何も言えず、ただ彼を見つめていた。
12の記憶が、突然胸の奥からせりがってきた。
当の彼は28歳だった。
仕事が続きせず、事あるごとに姉であるさおりを頼っていた。
さおりは私よりも母親と弟を常に優先しているように見えた。
婚する、さおりは私たちの共同預についてたい声で言った。
「族に使った」
私たちの将来のために、2でしずつ貯めてきた切なおだった。
それを勝に自分の族へ渡したと聞いた、私は絶望した。
がなくなったという言葉以に、その事実が私を打ちのめした。
結局、私は彼女の族には勝てなかったのだとった。
だからこそ、目のの景が信じられなかった。
姉から額の資を援助されていたはずの彼が、なぜこんな姿で空き缶を拾っているのか。
あんなに族を切にしていたさおりは、今どこで何をしているのか。
どうして弟をこんな状態のまま放っておけるのか。
広告
てつや君は、私が彼を責めてるとったのだろうか。
彼は歩ずさりをし、台をかばうような振りをした。
に濡れた顔を伏せたまま、彼は絞りすように言った。
「見なかったことにしてください」
私はゆっくりと彼にづいた。
「何を?」
私の問いに、彼は答えに詰まった。
てつや君は線だけで、自分の傍らにある惨めな台を示した。
「これ……」
自治体が許している回収所から、資源として売れるものを集めているのだろう。
今の彼には、それがきるための唯の段なのかもしれない。
私は問い詰めたくなる衝を抑え込んだ。
どうしてこんなことになっているの、という言葉が喉までかかったが、私はみ込んだ。
過のみ事を並べてて、彼をこれ以惨めな気持ちにさせるのは違う気がした。
それに、彼を問い詰めたところで、さおりとの失われたが戻るわけではない。
私はただ、目のの男の姿に静かなれみをじていた。
私は傘をし傾け、彼に尋ねた。
「夕飯、べた?」
自分でも驚くほど、穏やかな声だった。
てつや君は弾かれたように顔をげた。
予の言葉に、どう反応していいかわからないようだった。
彼はずさりしながら、さな声で答えた。
「丈夫です」
その言葉を聞いた瞬、私の胸の奥がちくりと痛んだ。
さおりも昔、よくその言葉を使っていた。
仕事で理尽な扱いを受けたも、体調が悪いも、彼女はいつもそう言って笑った。