"青い痣と一冊の手帳" 第10話
「え……? 、どうしたの? 何か欲しいものでもあるの?」 驚いた私が声をかけると、は何も答えず、ただ黙々とスポンジをかしていた。けれど、折チラチラと、何か言いたげな、私の体調を気遣うような複雑な差しを向けてくる。 言葉にはさなくても、息子は私を配し、しでも負担を減らそうとしてくれているのだ。
(ありがとう、……) 息子の無言の優しさに触れた瞬、張り詰めていた私のの緊張がしだけ解け、涙が溢れそうになった。この子のだけが、私がこので正気を保ち続けるための、唯の錨だった。
だが、どれほど気丈に振るおうとしても、肉体は嘘をつかない。 々の過な事、義母からの精神な攻撃、そして夫からの遇。蓄積された疲労とストレスは確実に私の体を蝕み、昼でも激しい目眩や倦怠に襲われて横になるが増えていった。 (私、もう若くないものね……こんなに疲れが取れないなんて、けないわ) 齢のせいだと自分に言い聞かせながら、い体を引きずって朝の支度をする。
「何だい、今の卵焼きは! 焼きすぎてカチカチじゃないか!」 卓で義母が甲い声を張りげた。 「……申し訳ありません」 私はふらつく元を隠すように、子へと崩れ落ちた。いつのにか、理尽に鳴られても反射に謝罪の言葉をにすることが、体に染み付いた習慣になってしまっていた。
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「ハッ、何が『申し訳ありません』だ。ったフリさえすりゃ許されるとってんだから、いい気なもんだよ」 義母は嘲笑混じりに吐き捨てると、ドスンときな音をててテーブルを拳で叩いた。その暴力な振に、私はわずビクッと体を縮こまらせる。 「こんない朝飯、いらないよ!」 義母はそう言い放ち、自へと戻っていった。
続いて起きてきたも、テーブルの料理を瞥するなり、皿を乱暴に押しのけた。 「俺もいらん。米と納豆だけでいい。こんな油っこいおかず、朝からえるか」 はそう吐き捨て、広げた聞に目を落とした。
その異様な景の向かい側で、は黙々と朝をに運んでいた。 だが、その箸を持つが、りを押し殺すように微かに震え、きが荒くなっているのを私は見逃さなかった。息子ので、父親と祖母に対する何かが決定な限界を迎えつつあるのを肌でじていた。
「おい、今はかけるから昼飯はいらんぞ」 は聞を放りすと、スマートフォンと財布をポケットにねじ込み、誰にともなく言い捨てて玄関へと向かった。 (そうか……今は曜だったわね) 曜や付の覚すら曖昧になるほど、私の考力はしていた。
いため息をつきながら、片付けのために子からちがろうとしただった。
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いつのにか朝をべ終えていたが、すっと私の目のにちはだかった。
「……? どうしたの?」
とうの昔に私のを追い越し、見げるほど逞しくなった息子の顔を、私は議そうに見げた。 は無言のまま、学のポケットから何かを取りし、私ののに押し込んできた。 さなのひらサイズのボイスレコーダーと、使い込まれた冊のメモ帳だった。
「……最に役つのは、じゃない。証拠だよ」
息子のから発せられたく落ち着いた声に、私は息を呑んだ。 「え……? 何よ、これ……」
震える指先で、私は渡されたメモ帳の表をめくった。 そこに並んでいた文字を目にした瞬、背筋にがった。 ノートには、几帳面な息子の跡で、びっしりと詳細な記録がき込まれていたのだ。
『〇〇 午分 台所にて。父がすれ違いざまに母の腕をく殴打(故)。母、棚に激突』 『〇〇 午分 リビング。祖母による格否定発言(「役たず」「に損ない」等)。父はそれを煽るように嘲笑』 『〇〇 午分 父が母のを故に引っ掛け、母が転倒。打撲痕あり』
付、、所、状況の詳細。そして、そこにははっきりと【偶然を装った暴力】という言葉が記されていた。
「これ……、あなた……」 私の声は激しく震え、それ以言葉を紡ぐことができなかった。
の震えが止まらない。