"青い痣と一冊の手帳" 第8話
そんな考に沈んでいると、が脱ぎ捨てたワイシャツを指差し、さらなる命令をしてきた。
「おい、はこのストライプのシャツを着ていくから、今すぐ洗ってアイロンかけとけよ」 「えっ……今から? もう夜のを過ぎてるわよ。今から洗いして干しても、の朝までに乾くか分からないわ」 「ハッ、それをなんとか夫して乾かすのが、おの仕事だろうが! 専業主婦のくせに言い訳ばっかりするな!」
はあざけるように笑い、缶ビールをけた。 私は唇を噛み締め、ため息を押し殺して洗面所へと向かった。デリケートな素材のシャツを洗いし、の脱をかけ、乾きの布に当て布をして温のアイロンを根気よく当て続ける。蒸気でがこもる洗面所で作業を終えた、計の針は夜零をとうに回っていた。
ところが翌朝、苦労して仕げたシャツを見たは、平然とした顔で別のネイビーのシャツをクローゼットから引っ張りした。 「あー、やっぱり今はそのシャツって気分じゃなくなったわ。こっちにする」
目眩がするほどの徒労が私を襲った。 文句を言おうと喉元まで言葉がせりがったが、それをにすれば朝から鳴りいになり、余計に体力を奪われるだけだ。私はただ無言でシャツをハンガーに戻し、義母の健康状態にわせた減塩の朝作りに取り掛かった。
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義母は血圧の持病があり、濃い付けは体に毒なのだ。私は汁を丁寧に取り、素材のをかしたのを並べた。
だが、卓についた義母は、噌汁を啜るなり、顔を歪めて箸を叩きつけた。
「……何だい、こののないい飯は!」
義母の鋭いが私を射抜く。その刺すような線に、私はわず肩を竦めてしまう。 「お母さん、血圧がおいので、お医者様からも塩分を控えるように言われていたでしょう? 減塩のためにしに仕げてあるんです」 「はあ!? こんな気のない病院みたいなもの、美しくも何ともないわよ! 寄りを虐待する気かい!?」
義母は喚き散らすと、卓のにあったサラダ油と醤油のボトルを掴み、鉢のお浸しや焼き魚のにドバドバと注ぎ始めた。油と塩分でギトギトになった料理を、これ見よがしにへと運ぶ。 その異様な景の向かい側で、がたい、軽蔑しきった目つきで義母の姿をじっと見つめていた。
最、息子の目つきがらかに変わってきていた。 かつての単純な反抗期の苛ちとは違う、静かで、徹な観察者のような線を、父親と祖母に向けている。 (まさか、……あのことに気づいているの……?) 私のに、得体のれないが過った。
義母は油まみれの魚をみ込むと、の線に気づいて媚びるような笑顔を浮かべた。
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「ああ、もそううわよねぇ? お母さんの作るご飯、がくていわよね? おばあちゃんをいじめてんでるのかしらねぇ」 しかし、は義母の言葉に切応じることなく、無言のまま子を引いてちがり、自分の部へと戻ってしまった。
「まあまあ、あの子ったら照れちゃって……」 義母は気まずさを誤魔化すようにニヤニヤと笑ったが、が照れているのではないことくらい、誰の目にもだった。私は何も言わず、ただ黙々とめかけた自分のご飯をに運んだ。
義母は私に対しては徹底なモラルハラスメントを繰り返す方で、孫であるのことは過剰なまでに猫がりしていた。 義母曰く、「は若い頃のに顔ちも骨格もそっくりだからい」のだそうだ。 だが、当のはそんな祖母の過度な執着を底から嫌がっていた。話しかけられても「うん」か「別に」しか返さない。 ある、の模試の成績ががり、私がリビングで「、数学の成績すごくがったじゃない! 頑張ったわね」と褒めていたのことだ。階の部からその声を聞きつけた義母が、血相を変えて階段を駆けりてきた。
「何!? 、成績ががったのかい!? さすが私の自の孫! の良さまでに、私にそっくりなんだねぇ!」
義母は満面の笑みでのを両で握りしめようとした。