"青い痣と一冊の手帳" 第5話
もまた、涙で目を腫らしながら、 「……にとっても、親父はきな支えだったからな」 と掠れた声で呟いていた。 寡黙だった義父は、私がらないところで、期の孫の良き理解者として言葉をかけてくれていたのかもしれない。義父は本当に、族全員からくされ、惜しまれながら旅っていったのだ。そううと、胸が締め付けられるようにくなった。
だが、しみに浸っていられたのも束のだった。 葬儀が通り終わり、私たちは遺品や財の理を伝うため、義実へと通うことになった。 の法を終えたあるの午、埃っぽい座敷でゴミ袋を広げて片付けをしていた、居のソファにどっかりと腰掛けていたが、に何かを決したようにいをいた。
「あのさ、母さん。ちょっと話があるんだけど」 「……何かしら?」
私はを止め、汗と埃で汚れ、疲れ切った顔でを見つめた。私の隣で、たい段ボール箱を運んでいたも、作業のを止めて顔をげる。 (そんな話を改まってする暇があるなら、しは片付けを伝ってほしいのに……) 私の胸の奥で、さな満が澱のように沈殿した。 なぜは、さっきからソファから歩もかず、昔のアルバムや写真を眺めているだけなのだろうか。い荷物を運び、畳を拭き掃除しているのは、ずっと私とのだけだ。
広告
その隣で、義母もまたハンカチを握りしめ、涙ぐみながらい話に浸っている。百歩譲って、最の夫をくしたばかりの義母がけないのは仕方がないとしよう。だが、なぜ体満で体力もあるはずのまで、当然のように客の顔をして座り込んでいるのか。
そんな私の苛ちをらず、はとんでもない言葉をにした。
「母さん、俺たちと緒に暮らさないか? どうだろう。母さんも結構いいだし、この広いにで暮らすのは防犯にも体力にも配だろ」
は俯き加減の義母を覗き込むようにして言った。 義母は今で歳になる。確かに、暮らしを続けさせるには健康面でもが残る齢だ。客観に見れば、同居を提案するにはもっともなタイミングなのかもしれない。 私は複雑ないをみ込み、嫁としての礼儀を保つために努めて柔らかい声を作って声をかけた。
「……そうですね。お母さん、どうですか? うちでよろしければ」
その瞬だった。 さっきまでんだように項垂れていた義母が、パッと顔を輝かせて顔をげたのだ。 義母の瞳には歓の涙が溢れし、まるで暗ので救いのを見したかのように声を震わせた。
「まあ……! 本当かい、! そんなこと言ってくれるなんて、ってもみなかったわ! 嬉しい、本当に嬉しいわぁ!」
広告
義母は歓の叫び声をげ、のを両でく握りしめた。 は得満面の笑みを浮かべ、誇らしげに胸を張った。 「当たりだろ。俺はずっとからそう考えてたよ」
(……ずっとから考えていた? いつからそんなことを考えていたの?) 私は唖然としての横顔を見つめた。 妻である私に対する事の相談など、ただの言もなかった。族構成が変わり、介護や常の世話をに引き受けることになるのは専業主婦である私だというのに、なんの伺いもてず、今こので急にいついてにしたに違いないのだ。
「やっぱり、さすが私のいだわ! 本当に頼りになる優しい息子を持って、私は幸せ者だよ!」 義母はを放しで褒めちぎる。そうやって持ちげられれば持ちげられるほど、は調子に乗ってをくする。 だが、涙を流してぶ義母の姿を見て、私はこれほどまでにを素直に表すだったのかと、別ので驚いていた。
実を言うと――私と義母の関係は、最初から決して良好なものではなかった。 今いしても胃のあたりがキリキリと痛むのだが、数、私とが結婚する際、義母は猛烈な勢いで結婚に反対したのだ。
『あんな賢しい女と結婚するなんて、絶対に認めません!』 義実への初めての挨拶の席で、義母から浴びせられたヒステリックな罵声は、今でもの底に焼き付いている。