"青い痣と一冊の手帳" 第2話
それでも、全を切り裂かれるような肉体の苦痛の最にあって、目ので夫から向けられる絶対な悪は、毒のように私の内面を侵していった。
そのだった。の拳が、爪が肉にい込むほどく握りしめられた。
「父さん……いい加減にしろよ!」
台所の空気を切り裂くような、息子の号が響いた。 普段の気だるげな反抗とはまるで違う、喉の奥から絞りすようない気迫だった。はのにちはだかり、倒れている私を自分の背で庇うようにして、父親を真正面から睨みつけた。肩が刻みに激しくしている。
父親に真っ向からりをぶつけられたは、瞬だけ気圧されたように目を見張った。だが、すぐにプライドが傷つけられたをわにし、苦々しい表で舌打ちを鳴らした。
「……チッ、わかったよ、呼びゃいいんだろ、呼びゃあ!」
はポケットからスマートフォンを乱暴に引っ張りすと、苛ちを隠そうともせずに液晶画面をく叩いた。
「もしもし、119番ですか。……ええ、妻が急に倒れましてね。腹が痛いとか言って騒いでるんですよ」
話の向こうに対するの投げやりな受け答えを、私はのきかける識の隅で聞いていた。 それからどれほどのが経っただろうか。くからづいてくるサイレンの甲い音が、朝の宅を切り裂いて響き渡った。
広告
ドタドタと音が階段を駆けがり、数の救急隊員たちが材を抱えて台所へと崩れ込んできた。 「救急隊です! 奥さん、分かりますか!?」 隊員が素く私の横に膝をつき、バイタル測定の準備を始める。青い顔で脇に控えると、壁に寄りかかって嫌そうに腕を組み、先を貧乏ゆすりさせている。救急隊員の際の良い処置の、を緩めて腹部の触診と状態確認がわれた。
その瞬だった。私の腹部に触れ、の裾をめくった隊員の表が、凍りついたように変した。 眉根が険しく寄せられ、目が見かれる。隊員は息を呑み、隣にいた同僚と鋭い線を交わした。
「――これは、病院だけじゃねえな。……警察だ」
い、だが台所に響き渡る声だった。
「……え?」
壁際で退屈そうにしていたが、の抜けた素っ頓狂な声を漏らした。 救急隊員の言葉のがまったく理解できないというように、を半きにして目を丸くしている。息子のもまた、予もしなかった単語をにして、目を見いたまま言葉を失っていた。
隊員はの反応に構うことなく、すぐさま胸元の無線を掴み、厳しい調でに通報を始した。 「こちら現救急隊、警察への臨請をお願いします。傷病者の体に、通常の疾患とは異なるな痕跡が数見られます。
広告
至急、所轄への連絡を――」
私はストレッチャーに乗せられ、から運びされた。たい朝のが瞬だけ頬を撫で、すぐに救急の部座席へと収容される。 ガタガタと激しく揺れる内。井の蛍灯がぼんやりと滲み、元で交わされる隊員の緊迫した声が、まるで底から響いてくるかのようにのいていく。 痛みに苛まれながら、私の胸のには奇妙なが湧きがっていた。
――ああ、にわたるあの理尽な忍耐の々に、ようやく終わりが訪れるのかもしれない。 れゆく識の淵で、私はそんなことをぼんやりと考えていた.
私の名は、美咲。今で歳になる専業主婦だ。 かつて、代の私は公認会計士の資格を取得し、監査法や会計事務所で精力に働いていた。企業の財務諸表と向きい、数字の羅列から経営の真実を読み解くその仕事に誇りを持ち、やりがいをじていた。 だが、夫であると会い、結婚することが決まった際、私は惜しまれながらも仕事を辞めて庭に入ることになった。
は私より歳。いわゆる昔ながらの「亭主関」をでくタイプの男だった。 「男はで稼ぎ、女はを守るものだ」 今にしてえば、昭の化のような価値観を悪びれもなく振りかざすだったが、付きっていた頃の私には、それがし器用で頼もしい男性の姿に見えてしまっていたのだから、若さとは恐ろしい。