"廃線の駅で待ち続けた父" 第16話
しかし、その――。
暗黒の渓の底から、鳴りのような音が響き渡った。
ボオオオオオオオオオオオオオオッ――!!
それは、にこのから消えったはずの、巨な蒸気関の、を震わせる咆哮だった。
黒崎の銃が、ピクリと凍りついた。
「な……なんだ、今の音は……!?」
黒崎が狼狽えて周囲を見回す。 音は、つではなかった。 断崖の向こう、ち入りが禁止され、レールが途切れていたはずの旧トンネルの暗の奥底から、規則正しい鉄の鼓が響いてきたのだ。
シュシュシュシュ……シュシュシュシュ……! ガタタン、ガタタン、ガタタン!
聴ではない。 面が確かに震えている。積もったが、微細な振でサラサラと崖へと滑り落ちていく。
「き、汽だと……? 莫迦な! この線はに廃止されたんだぞ! 鉄だって落ちているんだ!」
黒崎が狂ったように叫び、トンネルの漆黒の部へと銃を向けた。 も、健も、息を呑んで暗を見つめた。
のから現れたのは、巨な鉄の塊――ではなかった。
チカチカと点滅する無数の懐灯の条。 そして、そのろから姿を現したのは、国鉄の制を着た数名の保線区員たちと、防寒具にを包んだ青町の警察官たちだった。 先にっていたのは、型の式サイレン――蒸気関の汽笛と全く同じ音階を響かせる、救援用の特殊警笛を抱えた、あの柴田だった。
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「そこまでだ、黒崎ッ!」
警察署の声が、拡声器を通じて渓に轟いた。 「おの部は全員自供した! の列脱線事故における横領計画、ならびに今回の警察官襲撃と殺未遂の容疑で、貴様を逮捕する!」
「く……くそがああああっ!」
黒崎が逆し、引きを引こうとした。 その瞬――健の体が、弾丸のようにを蹴った。
、旋盤の刃物とので培われた、研ぎ澄まされた反射神経。 健のストレートが、黒崎の首を正確に打ち砕き、拳銃が夜の虚空へと弧を描いて落ちていった。 続いて繰りされた渾のフックが、黒崎の顎を捉える。
ドカッ!
元将の巨体が、煙をげて仰向けに昏倒した。 警官たちが斉に崩れ込み、黒崎の首にたい錠が打ち込まれた。
「……終わったんだな」
はそのにへたり込み、夜空を見げた。 は完全に吹き払われ、頂には息を呑むほど美しい満の空が広がっていた。 まるで、昭という代のいが、ようやく太陽のを迎えるためにを引いていくかのように。
警察の誘導で、源吉と健、そしては、全な旧駅舎へと連れ戻された。 ストーブの焚かれた駅事務で、温かい噌汁が振るわれる。
源吉は、毛布にくるまりながら、隣に座る健のだらけのを、ずっと握りしめていた。
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度も、そうとはしなかった。
「健」
源吉が静かに呼びかけた。
「……はい、お父さん」
「おさん、旋盤の仕事をしとるそうじゃな」
「はい。神戸の、さな町です」
源吉は目を細め、健の節くれだった、鉄の染み込んだ指先をじっと見つめた。 それは、かつて自分が畑のを耕し、修が鉄砲の代わりに握りたがっていた「働く者の」だった。
「修はな……本当は、汽を直す技になりたかったんじゃ」 源吉の言葉に、健の肩が微かに震えた。 「戦争にかされて、くれにまみれてんでしもうたが……あの子のはな、鉄を削って、しい本の汽をらせることじゃった。……おさんのそのはな、修が見ていたそのものじゃよ」
源吉の温かい涙が、健のの甲に落ちた。 「よう、きてくれた。……わしの息子になってくれて、本当に、ありがとうなあ」
健はもう、涙を隠そうとはしなかった。 両で源吉のを握り返し、ただ何度も、何度もくをげ続けた。
その景を、事務の扉のから見守っていたの胸に、温かいものが込みげてきた。 だが、物語はまだ、最の幕をろしてはいなかった。
翌朝、青駅の廃ホームに、通の報が届いたのだ。
昭、。 厳しいの寒さがようやく緩み、青の肌にはフキノトウが黄い顔を覗かせ始めていた。
解けを集めた青川は、澄み切った音をててを流れている。