みかん小説
本棚

"廃線の駅で待ち続けた父" 第11話

の男が銃を健に向けた瞬――跨線の階段から、猛然とを蹴てて突してきたがあった。

だった。 脇腹の激痛を気迫でねじ伏せ、にした積用のい鉄製スコップを、銃を持つ男の腕めがけて力任せに振りろした。

ガツンッ!

鈍い衝撃音とともに拳銃がに吹きぶ。 「ぐわあっ!」 男が腕を押さえてうずくまる隙に、駅梨と柴田が刀を崩れ込み、もうを取り押さえた。

で揉みう健と黒崎。 だが、い鉄を削り、巨械と格闘し続けてきた歳の労働者の腕力は、私利私欲に肥え太った元将を完全に圧倒していた。 健は黒崎の腕を背骨のへと極限までねじげ、その顔面をたいへと押し付けた。

くな……! 息の根を止めるぞ!」

黒崎はを吐きながら、苦悶の呻き声をげた。

静寂が、再び青駅の廃ホームに戻ってきた。 い散る牡丹が、男たちの荒い息遣いを吸い込んでいく。 やがて、くからサイレンの音が響いてきた。梨があらかじめ隣町の警察署へ請していたパトカーの群れが、を縫ってづいてくる音だった。

黒崎たちが完全に制圧され、パトカーへと連されていく、ホームの央には、に汚れたあの黒革鞄だけが残されていた。

広告

硫酸アンプルは全装置が作したため破裂を免れ、底の真鍮のロックだけが、歪んだ状態でしていた。

「健さん……」

が息をえながら歩み寄った。 健まみれので鞄を拾いげ、ベンチのち尽くす源吉の元へと運んだ。 そして、ポケットからさな細い鍵を取りした。 、肌さず首から提げていた、修から託された真実の鍵だった。

「……お父さん」

の声は、もう震えていなかった。

けます。……修さんが、あなたに遺したものを」

鍵穴に鍵が差し込まれ、ゆっくりと回される。 パチン、と乾いた音がして、固く閉ざされていた黒革の蓋が、静かにかれた。

も、梨も、柴田も、固唾を呑んでそのを覗き込んだ。 億円の塊のありか。陸軍の最密。国を揺るがす秘密の帳簿。 誰もが、そうしたおどろおどろしい「昭の遺産」が現れるものと信じて疑わなかった。

しかし――。

かれた鞄の底に収められていたものを見た瞬、そのにいた全員が、息を呑んで言葉を失った。

そこには、塊の目録など枚も入っていなかった。

然と並べられていたのは、使い古された農業用の種袋の束。 丁寧に油で包まれた、本の錆びたさな鎌。 そして――に置かれていたのは、鉛かれた、たった枚の便箋だった。

広告

『父。 私は軍の正な命令を拒絶し、この子と共にきるを選びました。 塊の類は、すべてへ捨てました。あのような血塗られた富は、には銭もりません。 私はこの子を連れて、必ず青へ帰ります。 帰ったら、父の畑を緒に耕しましょう。 しい米の種を、たくさん持って帰ります。 修

文字は、そこで途切れていた。

「修……」

源吉の膝が、に崩れ落ちた。 老は種袋の束を抱きしめ、子供のように声をげて泣き崩れた。 息子は、最初から何もかも捨てていたのだ。 巨万の富も、軍の栄も、すべてを投げ打ち、ただ「」と「父の待つ畑」だけを選んで、あの列からりたのだ。

が、泣き続ける源吉の背を、く、優しく包み込んでいく。

だが――。 そのの涙ので、の裏側に、もうだけ、微かに残された別の跡があることに気づいてしまった。

それは、修の文字ではなかった。 もっと幼い、震えるような文字で、の直き加えられたとわれる、恐るべき言だった。

臓が、再びたく凍りついた。

吹きすさぶ牡丹が、廃ホームの古びた製ベンチを容赦なくく染め変えていく。 パトカーの赤灯がざかり、へと消えたも、青駅の静寂は元には戻らなかった。枷をはめられた黒崎たちが残していった跡のに、が静かにり積もる。

「……君、どうしたんだね?」

梨駅が、刀を杖のように突きながら、審そうにを覗き込んだ。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: