"廃線の駅で待ち続けた父" 第8話
……そのけ方をっているのは、軍医からほどきを受けたおだけだ、健君」
黒崎は歩いを詰め、く唸るような声で脅迫した。
「しく青へ戻り、あの老いぼれから鞄を受け取って鍵をけろ。さもなければ……今夜のうちに、あの本源吉のあばらにを放つ。あの爺さんが焼けぬのが先か、おが状するのが先か……試してみるか?」
「貴様ッ!」
健が激昂して鉄パイプを振りげた瞬、黒崎の背にいた男がのスピードで踏み込み、健の鳩尾に鋭い蹴りを叩き込んだ。
ドスッ!
「がはっ……!」
健はそのに頽れ、鉄パイプをに取り落とした。 が咄嗟にびそうとしたが、もうの男に襟首を掴まれ、壁に叩きつけられた。
「君だったな、な駅員さんよ」 黒崎は見ろすようにの頬を軽く叩いた。 「おがわざわざ神戸まで案内役を買っててくれたおかげで、が省けたよ。謝するぜ」
「黒崎……! 源吉さんに指本でも触れてみろ、警察が黙っていないぞ!」
「警察? ハッ、あんな田舎町の駐に何ができる? 県警の層部には、こっちの息のかかった元軍がいくらでもいるんだよ。事故や災で片付けるなど、赤子のをひねるより容易いことだ」
黒崎は倒れ込む健の髪を乱暴に掴みげ、無理やりたせた。
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「は曜だ。……ちょうどいいじゃないか。老いぼれが待つあの廃ホームで、ぶりの親子の対面と洒落込もうぜ。健君、おが鞄を受け取り、鍵をけるんだ。そうすれば、老いぼれの命だけは助けてやる」
黒崎たちは健の両脇を抱え、事務所のへと引きずりしていった。 はに組み伏せられ、男のに腹を蹴りげられて識がのきかけたが、ざかるクラウンの排気音ので、健が振り向きざまに叫んだ声だけが、朶に焼き付いた。
『さん……! 逃げろ……! 源吉さんに……鞄を捨てて逃げろと伝えてくれぇっ!!』
バタン、とのい鉄扉がから閉ざされ、鎖が巻かれる音がした。 暗い事務所のに、は取り残された。
腹部の激痛に脂汗を流しながら、はうようにして話へとを伸ばした。 青駅の梨駅へ連絡しなければならない。源吉の命が危ない。 だが、受話器を取りげた瞬――ツーツーという発信音すら鳴らなかった。 話線が、側から鋭利な刃物で切断されていたのだ。
計の針は、曜の午を指していた。 の曜、午。 あとで、あの廃止された青駅のホームは、血塗られた修羅と化す。
は歯をいしばり、壁を伝ってちがった。 を引きずりながら、の裏のかり取りの窓へと、必にを伸ばした。
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曜の朝。 青町は、鉛のいに覆われていた。 が吹くたびに、乾いたがチラチラとい散り、気は肌を刺すような気に満たされていた。
青駅の事務で、梨駅は落ち着かない様子で何度も計に目をやっていた。 午。神戸へ向かったきり、からの連絡が途絶えている。宿直けの柴田も、をへの字に結んだまま、プラットホームの清掃にが入らない様子だった。
「駅……の奴、本当に丈夫でしょうか。昨夜から度も話がありません」
「……分からん。だが、あの黒崎という男の目が気にかかる。君が無茶をしていなければいいが……」
その、駅舎の改札を、杖をついたがゆっくりと通り抜けていった。 本源吉だった。
「源吉さん!?」 梨が慌てて窓からを乗りした。 「まだ午ですよ。曜とはいえ、いつもは夕方に来られるのに、どうしてこんなにく……」
源吉はを止め、く被った鳥打を持ちげた。 その顔は、いつも以に蒼で、窪んだ両目の周りには濃い隈が張り付いていた。 だが、その膝元ではなく、今はしっかりと胸のに、あの黒革鞄が太い麻紐で括り付けられていた。
「梨さん……今はな、虫のらせというんかのう」
源吉の声は、の枯葉のように擦れていた。
「朝から、修の声がの奥でずっと響くんじゃ。
『親父、今だ、今あの子が来るぞ』ってな。……にいられなくなって、が勝にここへ向いてしもうたんじゃ」