"廃線の駅で待ち続けた父" 第1話
昭、。 京ではに控えたオリンピックに向け、が解体と建設の槌音に包まれ、幹線というの超特急の噂で持ちきりだった。しかし、首都からくれたの町・青(あおや)には、まるで戦のがそのまま澱のように淀んでいた。
本線から枝分かれするローカル線の終着駅、青駅。 数本のディーゼル気が気怠げに黒煙を吐きして発着するだけのさな造駅舎だ。だが、その現役の単式ホームの向かいには、枯れに半分埋もれた、もうつのい島式ホームが横たわっていた。
かつて、さらに奥の鉱町や炭鉱集落へと物資とを運んでいた「青支線・旧線」。 昭の害による鉄流失と鉱の衰退に伴い、わずか数で廃止された線だった。 今ではレールの半が赤錆びて歪み、枕は朽ち果て、線止めとして突きてられた古タイヤのが夕暮れのに黒々と佇んでいる。絶対に、列が入ってくるはずのないんだ線だ。
その廃ホームの片隅、根のトタンが吹きんだ製ベンチに、毎週曜の午になると必ず現れる老がいた。
煤けた鳥打をく被り、膝のには使い込まれた黒牛革の鞄を事そうに両で抱え込んでいる。 名は本源吉(やまもと・げんきち)。
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今で歳になる。
「……源吉じいさん、もうが暮れるよ。がてきたから、待に入りなよ」
青駅に配属されて目になる若き駅員、透(なかむら・とおる、歳)は、改札のラッチをて声をかけた。 初がりる季節、を吹き抜けるは骨の髄までえる。だが、源吉は襟巻きに顔を埋めたまま、ゆっくりと首を横に振った。
「さん、いつも気ぃ遣ってくれてすまんなあ。……でもな、もうすぐなんじゃ。あの子が乗った汽が、このカーブの向こうから顔をすはずなんじゃよ」
源吉の濁った、けれど確信に満ちた瞳は、線が途切れた雑林の先の暗がりをじっと見つめていた。
(まただ……)
は喉までかかった言葉をみ込んだ。 線の先にあるはずの第青川梁はに崩落し、今は苔むした脚のコンクリートブロックが転がっているだけだ。物理に、汽などってこられるわけがない。
町の古老たちの話では、源吉の息子・修は終戦直の昭、復員列ので事故に遭い、命を落としたのだという。妻にも先たれ、涯孤独となった源吉は、息子のという現実を受け入れられず、精神を病んでしまったのだと誰もが憐れんでいた。
「来ない汽を待つれな狂」――それが、駅を利用するたちの共通認識だった。
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だが、にはどうしても引っかかることがあった。 狂の妄執にしては、源吉のはあまりにも几帳面で、規則正しすぎた。 のも、のも、遅れることなく曜の夕方に現れ、最終の気がったの午分に、さくため息をついて裾の自宅へと帰っていく。
そして何より、あの膝のの黒革鞄だ。 源吉は決してその鞄を肌からさず、に触れさせようともしなかった。
「源吉さん、その鞄のには、何が入っているんです?」
が何気なく尋ねた瞬、源吉のがビクッとねた。 老は鞄の真鍮の留めを鷲掴みにし、まるで切な宝物を奪われまいとする獣のように、を鋭く見つめ返した。
その異様な緊張に息を呑んだのに、たいに乗って、カランと乾いた属音が響いた。 源吉のポケットから、何かが零れ落ちたのだ。
それは、に汚れた古い枚の券切符だった。 が屈み込んでそれを拾いげた瞬、その表面に印字された文字を見て、全の血が凍りついた。
そこには、昭――この線が廃止された【翌】の付が入った、してはならない切符だったのだ。
は拾いげた券切符を指先でつまみ、灯の暗い裸球にかざした。 のボールで作られた、国鉄の等切符。
の摩擦で角が擦り切れ、の脂で茶く変しているが、活版印刷の数字ははっきりと読み取れた。