"帰国した父が「家族を忘れた」と言った日" 第7話
父の仕事は、華々しい展の裏でじた、会社が決して表汰にしたくない「敗の膿」を、で分類し、帳簿ので償却処理していくことだった。
父は老鏡をかけ、枚の伝票に目を落とした。
サイン欄には、かつて自分が現で雇用した若いドイツ技師の名が、乱暴な跡で残されていた。
『野、君の会社の製品は粗悪だ。これ以、ドイツの顧客を欺くことはできない』
の奥で、異国ののたいと、法廷で宣告された敗訴の槌音が蘇る。
以の父なら、その記憶から逃れるために、英語の専用語を呟き、に分い壁を張り巡らせていただろう。しかし、今の父のは震えていなかった。
父は赤鉛をに取り、伝票の余に、几帳面な楷で本語の注記をき加えていった。
『周波回における半田付けの耐。設計部へのフィードバックす。現代理への義理、当方に責任あり』
会社の役員たちが「現の商慣習の違いによる抗力」として片付けようとしていた失敗のすべてを、父は自らので、々しい傷跡として社歴の裏側に刻み込んでいた。逃げないこと。自らが犯した誤ちと、敗の痛みを、正当な本語の記録として残すこと。それが、このの部で父が見した、最の職責だった。
正午のサイレンが鳴り響いた。
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父は机の引きしをけ、母が持たせてくれたアルミの弁当箱を取りした。蓋をけると、ぎっしり詰まった麦飯の真んに赤い梅干しがつ、そして昨夜の残りの塩鮭と、甘辛く炒めた参のきんぴらが綺麗に並んでいた。
父は箸を割った。
パチン、と乾いたの音が、誰もいない倉庫に静かに響いた。
父は、めたご飯をに運び、ゆっくりと噛み締めた。その背は、の征ののように堂々としたものではなかったが、にしっかりと根を張ったのような、確かなみを湛えていた。
、京にはを切るような寒が吹き荒れていた。
学の健次にとって、受験の音は、すぐそこまで迫るの響きのようにく臓を圧迫していた。放課の教で模擬試験の判定表を睨み、が暮れるまで図館で数学の過問と格闘する々。
第志望である都の格ラインには、まだ内申点も偏差値もわずかに届いていなかった。父の母であり、京でも屈指の学。父のトランクからあの破産類を見つけて以来、健次ので「へく」という目標のは、きく変貌していた。
父をばせるためでも、エリートの階段を登るためでもない。
かつてこの京の空ので、真っ直ぐに学び、そして挫折していった父の過のを、息子である自分がもう度肯定し、受け止めるための挑戦だった。
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午過ぎ、井の線の久駅をり、踏切の警報が鳴り響く寒空のを歩いていただった。
方を歩くの男のろ姿が、健次の目にび込んできた。
臥れたオーバーコートの襟をて、茶い包みを脇に抱えて、肩を落として歩く男。父だった。
父は駅から自宅へ向かうをれ、線沿いのさなみが連なる横丁へとを踏み入れていった。赤提灯がに揺れ、焼き鳥の煙と酒の匂いがち込める。健次はを止め、しれた柱のから父の背を見つめた。
父が簾をくぐったのは、「千鳥」という板を掲げた、カウンターだけの古びた衆酒だった。
健次は躊躇いながらも、引き寄せられるようにの引き戸の隙へとづいた。曇りガラスの向こうから、荒っぽい客たちの笑い声と、コップがぶつかりう音が漏れ聞こえてくる。
隙から覗き込むと、父はカウンターの番端の丸子に腰掛け、枡に乗せられたコップ酒を、静かに両で包み込んでいた。
「おい、野じゃないか!」
突然、の奥の座敷から、酔した様子の背広姿の男がちがり、父の肩を乱暴に叩いた。通信業の社章を襟につけた、がらみの恰幅の良い男だった。
「やっぱりおだ! おい見ろよ、元・欧州販売法のスター、野課補佐殿のおましだぞ!」