"廃線駅に殘された最後の切符" 第2話
だが、机の端には、あの昭発の「京ゆき」の券が、依然として置かれたままだった。
修は類を段ボール箱へ詰めながら、どうしても拭えない違をにした。 「駅。昭のって……何かあったんですか」
源吉のペン先が、ピクリと止まった。 「……何もない。ただの昔の切符だ」
「嘘です。今朝、引きしの奥を見ました。駅誌の昭の綴りだけ、のページが何枚か破り取られていました」
源吉は答えず、インク壺にペン先を浸した。沈黙が、く部を満たす。
修は夕方、駅の通りにある唯の酒「丸万商」へを運んだ。 主の万吉(歳)は、駅で半世紀以商売を続けており、町の歴史なら役の戸籍係よりも詳しい男だった。
「万さん、ちょっと聞きたいことがあるんだ」 缶詰の箱を片付けていた万吉が、修の真剣な顔を見てを止めた。
「なんだい田の坊主。廃線の片付けで忙しいんじゃねえのか」
「昭のことなんだが……この駅から、京へ集団就職か何かでてったのに、『田』って苗字のはなかったかい?」
万吉のが、ピタリと止まった。 それまで浮かべていた笑いが、潮が引くように消えっていく。
「……誰からその名を聞いた」
「駅に、その付の京きの切符が枚だけ残されていたんだ。
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駅は『取りに来るがいる』って言うだけで、何も教えてくれない」
万吉はの奥の茶のを振り返り、誰もいないことを確認してから、声をひそめてを乗りしてきた。
「田君、その話は……あまり掘りせん方がいい。あの件はな、この町じゃタブーなんだ」
「タブー? どうしてですか」
「田健だよ。当歳……学をたばかりの利発な子だった。父親がで事故でんでな、母親と幼い妹を養うために、京のメリヤスへ就職が決まって、この駅のホームから旅っていった」
「集団就職ですね。あの代なら、珍しい話じゃないはずだ」
「ああ、普通ならな。だがな……健は、京へ着かなかったんだ」
万吉の濁った瞳が、修を射抜いた。
「方になった。京の受入先にも現れず、実へ仕送りも届かず、便りつ寄越さなかった。警察も探したが、煙のように消えちまった。……母親のサダさんは、毎のように駅へ通い詰めてな、駅に泣き縋っていたよ。『健は本当にあの列に乗ったんですか』ってな」
「駅に……?」
「そうだ。だが、それからもしねえうちに、サダさんも体を壊してんじまった。町のもんはみんな噂したよ。健は京へくのが嫌で、途で逃げして野垂れんだんじゃないかってな。それ以来、田健の名をにする奴はいなくなった」
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万吉は首を振り、奥へ引っ込もうとした。 修はその背に向かって、最の言を投げかけた。
「万さん。健君が乗った列を見送ったのは……誰だったんですか」
万吉はを止め、振り返らずにさく呟いた。
「……源吉さんだよ。あのの朝、改札で健の切符に鋏を入れたのは、駅自だったんだ」
万吉の言葉を聞いて駅へ戻った修は、胸のざわつきを抑えられずにいた。
夜の帳がりた沢駅は、ええとした静寂に包まれていた。 駅の灯の、源吉はすでに帰宅しており、内には古計のコチコチという乾いた音だけが反響していた。 机のには、やはりあの昭の券が、ぽつんと取り残されている。
修は、机の最段にある鍵のかかっていない引きしをけた。 そこには、茶く変した背表の『駅当直誌』が代順に並んでいた。
昭――。 表にかれた文字は、源吉がまだ代半の、力い跡だった。 修はページをめくった。 、、そして。
――【候・曇。構内除作業完。り貨物列分延着】。 ――【候・。期臨列増発通達受領】。
そして、運命の。 修の指先が凍りついた。
そのページは、破り取られてはいなかった。 しかし――目から目まで、本来なら列の運記録や特記事項が几帳面に記されているはずの欄が、すべて真っな空のまま放置されていたのだ。