"廃線駅に殘された最後の切符" 第1話
昭、。 昨夜吹き荒れたの嵐はり、あいの町・沢(しらさわ)には、痛いほど澄み切った朝のがり注いでいた。
だが、築を超える造駅舎「沢駅」の待には、の気配が欠片もなかった。 昨まで鳴り響いていた発ベルも、改札鋏の気よい属音も、蒸気関の煤煙の匂いすらも、まるで最初からしなかったかのように消え失せている。
国鉄沢線――全キロ。 度経済成の波に呑まれ、全国に先駆けて昨、昭をもって正式に廃線となった。
歳の若駅員・田修は、腕章をした制の襟元を正し、静まり返った事務の扉をけた。 残務理と類の梱包、そしてわれる本庁への引き渡し点検。それが、この駅に残された最の仕事のはずだった。
「……おはようございます、駅」
修が声をかけると、古びた楢(なら)材の事務机の向こうで、老駅・本源吉(歳)がゆっくりと顔をげた。 退職のを迎えてなお、源吉は皺ひとつない国鉄の正装制をにまとい、袋をはめた指先を机のに揃えていた。その背筋は、現役代と寸分違わず真っ直ぐに伸びている。
だが、修の目は、源吉の顔ではなく、その元に釘付けになった。
誰もいない、もう度と列がることのないはずの無駅の机のに――ポツンと、枚の切符が置かれていたのだ。
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それはを圧縮して作られた、方形のさな「券」だった。 械印刷ではなく、今はもう見かけなくなった活版印刷の々しいフォント。
修はわず机に歩み寄り、券の表面を覗き込んだ。
【沢から 京都区内ゆき】 【経由:奥羽・本線】 【発券:昭】
「駅……これ、何ですか?」
修の喉がさく鳴った。 廃線になり、切符の販売窓も鉄格子で閉ざされたというのに、なぜもの付が入った京きの切符が、今朝、ここに置かれているのか。 昨、最終列の営業終、庫のの切符類はすべて点呼確認し、修自ので封印袋に収めたはずだった。この枚だけが、庫帳のどこにも記載されていない「帳簿の切符」だった。
源吉は袋の指先で、券の角を慈しむようにそっと撫でた。 そのく刻まれた目尻の皺の奥に、言葉にはできない暗いが宿っている。
「……取りに来るがいるんだよ、田」
く、嗄れた声だった。
「取りに来るって……誰がですか? もう列は来ないんですよ。線のポイントも、昨夜の最終がたに保線区ので完全に固定されました。今からここは、ただのの箱です」
修が詰め寄っても、源吉はそれ以何も答えなかった。 ただ、その券を机の真ん、番目つ所へと押しし、静かにちがって改札の方へと歩きした。
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修は残され、机ののさなを見つめ続けた。 なぜの、昭なのか。 なぜ、き先が「京」なのか。
修はまだらなかった。 この枚の切符が、かつてこの町を揺るがし、そして誰もがを閉ざして葬りった「あるの失踪」の扉をける鍵になることを。
沢駅は、かつて町の臓だった。 戦の混乱期から昭代にかけて、朝のホームは林業の夫、商の農、そして郡部のへ通う学たちの気で溢れかえっていた。 改札につ源吉は、乗客全員の顔と名を覚えていた。「郎さん、今の野菜はそうだね」「ノリちゃん、試験頑張りな」――そんな言葉がび交うのが、この町の常だった。
しかし、本が奇跡の経済復興を遂げるにつれ、町の景は変した。 若者たちは学を卒業すると同に「の卵」と呼ばれ、京や京の業帯へと吸い込まれていった。舗装された国が通し、自用と線バスが普及すると、鉄の赤字はごとに膨れがった。
そして昭。国鉄の財政再建計画により、沢線は容赦なく「使命を終えた」と宣告されたのだ。
「田君、類の理はんでいるかい?」 午、駅へ戻ってきた源吉は、何事もなかったかのように帳簿の確認を始めた。