"消えた姉と18年後の手紙" 第7話
佐子は作業台の布を静かに両で撫で、く、い息を吐きした。
「そう……お父さんも、くなったのね」
「どうして……どうして度も帰ってきてくれなかったんだ!」
浩の叫びが、静かなアトリエに響いた。
「母さんはぬまで、毎晩玄関の鍵をけて待ってたんだぞ! 『佐子が帰ってくるかもしれない』って、のものも待ってたんだ! 父さんだって……父さんだって、あの刻表とを、仏壇の底に隠して……で抱え込んでんでいったんだぞ!」
佐子は何も言い返さず、浩の激昂を静かに受け止めていた。
そして、お茶を淹れるために、アトリエの奥のさな流し台へと歩きした。
その背は、かつて越湯沢の駅のホームで見たよりも、遥かにく、揺るぎない力さに満ちていた。
の奥にあるさな応接スペースには、英国製の古い丸テーブルと、座面の擦り切れたビロードの子が脚置かれていた。
佐子は湯気のつ磁のカップをつ運び、つを浩のへ静かに滑らせた。湯気とともにちるアールグレイのベルガモットのりは、かつて魚沼の実で煤けた鉄瓶から注がれていた番茶の匂いとは、何つ交わることのない別世界の芳だった。
浩はカップに触れようともせず、膝ので握りしめた両拳を震わせていた。
広告
「姉ちゃん……父さんの仏壇の底から、あのを見つけたんだ。『お母さんと浩には言わないでくれ、んだものとして諦めさせてくれ』って……どうしてあんな残酷なことがけたんだよ。母さんはぬまで、おの失踪は自分の育て方が悪かったからだと、自分を責め続けていたんだぞ」
佐子はビロードの子にく腰掛け、両を膝のでねた。その指先には、布をく引き締め、針を何万回も押し通してきた者特のいタコが刻まれていた。
「浩。あなたには、お母さんをしませた酷な姉に見えるわね。……でもね、あの、越湯沢の駅で私が反対方向の列に乗らなかったら、私はあののうちにんでいたわ」
「んでいた……? なんでそんな極端な話になるんだよ。野の裁で働くのが嫌なら、嫌だと断ればよかったじゃないか!」
「断れるような空気だった?」
佐子の澄み切った瞳が、まっすぐに浩の顔を射抜いた。
「昭の、あの集落で、親の決めた就職先を断って自分の見を通せた女が、でもいたかしら。お父さんは毎晩、所のたちをに呼んで酒をんでは、『佐子が京で稼いで浩をへやる』って誇らしげに語っていた。がそれを『美談』として称えていたわ。私のなんて、誰も度も聞かなかった」
広告
佐子はちがり、壁際に置かれた頑丈な楢材の作業台へと歩み寄った。台のには、のクラフトで作られた体裁断用の型が、用途ごとに然と並べられていた。
「裁の基本はね、着るの体の凹凸にわせて、正確に布を切り抜くことよ。どこか箇所でも無理に引っ張れば、全体が歪んで破れてしまう。……あの頃のというはね、私のという布を全部切り刻んで、あなたという衿や頃を飾るためだけに使われようとしていたの」
佐子の声には、りも棘もなかった。ただ、徹な事実を客観にスケッチするように言葉をねていく。
「野の『ミツワ裁』の条件を、お父さんは私にどう説していたかっている? 『み込みで見習いをしながら、夜は裁学へ通わせてくれる』……そう言っていたわね。でも、私は発の週、役へ類を取りにった帰りに、駅の公衆話からそのへ直接話をかけたの」
浩は息を呑んだ。
「の主は、驚いたように言ったわ。『うちは朝のから夜のまで、仕てがったのアイロンがけと配達、それに掃除で杯だよ。学へ通う暇なんてあるわけない。料は千円、そのうち千円はお父さんの指定した潟の農協座へ毎全額引きで送することになっている』って」
部のの空気が、張り詰めた糸のように引き絞られた。
「お父さんは、私を仕て職にするために京へやるんじゃなかった。