"12人の子を育てた母の墓から蛇が出た――納骨室を開けると、知らない骨壺が重ねられていた" 第1話
母の墓からてきた蛇
「蛇だ!」
孫の声が、あいの墓に響いた。
振り返ると、褐の蛇が母の墓の脇からいしていた。さは1メートルほど。供えたばかりの菊のを横切り、塔の根元でを持ちげている。
弟の孝志がばさみをつかみ、追い払おうとした。
「待て。触るな」
止めたのは、91歳の父だった。
杖に両をねたまま、父は蛇ではなく、その背のの継ぎ目を見ていた。
「この墓は、何かがおかしい」
母・澄がくなって、3目の命だった。
12の子供を育てた母の墓には、この、方にむ弟妹とその族まで集まっていた。全員がそろうのは葬儀以来だった。線の煙、子供たちの声、持ち寄った供物。さっきまで賑やかだった墓が、父のひと言で静まり返った。
母は、兄弟げんかが起きるたびに「12もいれば、同じ考えの子ばかりじゃなくて当たり」と笑うだった。葬儀のあとも、命だけは誰かが欠けないよう、私が連絡役を続けてきた。今も墓には12束のが並び、それぞれの庭から持ち寄った菓子や果物が台を埋めていた。
その真んを蛇が横切ったことで、楽しい集まりの景が急に壊された。
蛇はしばらくこちらを見ていたが、やがて墓のへ戻っていった。
消えたのは、正面ではない。墓を支える台の奥だった。
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私はスマートフォンを取りし、蛇が入った所を撮した。
「兄さん、蛇なんてにはいくらでもいるでしょう」
女の真由美が、怯えて泣く孫の背を撫でながら言った。
「そうかもしれない。でも父さんは、何がおかしいとったんだ」
父はすぐには答えなかった。杖の先で面を示す。
「は、あんな線はなかった」
腰を落として見ると、台の継ぎ目を埋めるの目材に、細い亀裂がっていた。その周囲だけがわずかにるい。苔のえ方も、側とは違っていた。
「修理した跡じゃないの?」
「誰が修理するんだ。うちは誰も頼んでいない」
墓の使用者は父で、寺との連絡は男の私が引き受けている。材に修理を頼んだ覚えはなかった。
孝志が目を指で触ろうとしたので、私は首をつかんだ。
「触らないほうがいい。まず写真を残そう」
正面、、面との境目。私は角度を変えて10枚撮った。奥のはがりでもないのに黒く湿り、枯れた杉の葉が自然に寄せられている。
父は墓に刻まれた母の戒名を見げた。
「澄は、墓のまでする女じゃない」
「父さん」
「笑い話で済めば、それが番だ」
父はそう言って線を1本だけてた。だが、帰りのに乗るまで、1度も墓に背を向けなかった。
までの坂で、私は父の腕を支えた。父の歩幅は以の半分ほどになっている。
それでも途で3度ち止まり、墓の方角を確かめた。
「何か当たりがあるのか」
「ないから怖いんだ」
父はそれ以話さなかった。助席へ乗ると、膝のに置いた両を握ったまま、に着くまで窓のを見ていた。
その夜、私は撮った写真をパソコンに移した。
の命に撮した族写真もき、墓のを拡する。の写真では、目材は全体が同じ濃いだった。亀裂もなく、台の端は苔で覆われている。
今の写真には、苔を剥がして塗り直したような跡があった。
しかも、蛇が消えた細い隙の奥に、いものが写り込んでいた。
ではない。しい目材が、内側から押しされたように盛りがっていた。
私は写真の付を確認し、翌朝、墓を管理する寺へ話をかけた。