"「和裁しかできない」嫁と20億円の着物" 第10話
達也とは、20億円の資産について誰にも話さなかった。
次男や男にはもちろんらせていない。
ひっそりと2だけの秘密として守り続けたのだ。
株券は専の助言を受けて適切に管理することにした。
部は売却し、残りは切に保管している。
経済なは完全に消えた。
はにしい設備を導入する。
若い弟子も2雇うことができた。
枝が築いたの伝統を、次の世代へ繋いでいく準備がった。
達也も定退職した。
今はの仕事を伝いながら、穏やかな々を送っている。
2で旅にくこともあった。
次男や男とは、枝の葬儀以来ほとんど連絡を取っていない。
に1度、賀状が届く程度である。
それも形式な挨拶だけだった。
恵子や彩子の姿も、もう何も見ていない。
彼らの活がどうなっているのか、はらなかった。
の夕方、で着物を縫っていた、話が鳴った。
は針を置いて受話器を取る。
「もしもし」
話の向こうから女性の声が聞こえてきた。
その声は震えている。
「あの、お姉さん」
恵子の声だった。
は驚いて受話器を握り直す。
「恵子さん?はい、お久しぶりです」
恵子の声は以とは全く違っていた。
あの自信に満ちた響きはどこにもない。
代わりに疲れと焦りがにじみている。
は静かに尋ねた。
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「どうされました?」
恵子が言葉に詰まる。
「あの、実は……」
話の向こうから、さなすすり泣きが聞こえてきた。
恵子が声を絞りす。
「うち、変なんです」
その言葉に、は黙ってを傾ける。
恵子の話によると、次男の会社が祥事に巻き込まれたそうだ。
取引先の倒産の響で、きな損失をしたという。
次男は責任を取って退職せざるを得なくなった。
それだけではない。
恵子自も会社でリストラに遭った。
製薬会社の規模な改編で、管理職のくが解雇されたそうだ。
恵子の声がさらにさくなる。
「今、2とも無職で……」
恵子がをすする。
「貯もほとんどなくなって、活費にも困ってるんです」
は何も言えなかった。
ただ受話器を握って聞いているだけである。
恵子が懇願するような声で続ける。
「お姉さん、助けていただけませんか?」
恵子はすがるように言った。
「しでいいんです。おを貸していただけないでしょうか?」
の胸に複雑なが渦巻いた。
かつて自分をバカにしていたである。
裁しかできないだと笑っていただ。
だが今は困っているのだろう。
その声には本当の切迫があった。
は落ち着いてをく。
「し待ってください」
はそう言って受話器を置いた。
隣の部にいる達也を呼ぶ。
達也がに入ってきた。
は恵子からの話のことを説する。
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達也の表がくなった。
何かを考えるように腕を組んで黙り込む。
達也が受話器にを伸ばした。
「俺が話す」
達也はそう言って受話器を取る。
「恵子さん、俺だ」
達也の声は静かだったが、たい響きがある。
恵子が必に呼びかける声が漏れてきた。
「兄さん、助けてください。本当に困ってるんです」
恵子の声が話の向こうで響く。
達也がゆっくりと言葉を続ける。
「恵子さん、1つ聞きたい」
達也は目を細めた。
「母さんが病気で苦しんでいた、君たちは何をしていた?」
恵子が言葉に詰まる。
達也は追及する。
「1度も見わなかったね」
達也の声は静かだが、鋭い刃のようだった。
「入院費の伝いも切なかった。葬儀にも形だけ来て、すぐ帰った」
恵子は何も言い返せない。
話の向こうでさな泣き声が聞こえる。
達也はさらに続ける。
「そして遺産がないと分かった瞬に絶縁したのは、君たちだ」
達也の言葉が1つ1つく響く。
「母さんは、それを全部見ていた」
は達也の横顔を見つめた。
その表にはいしみと、静かなりが宿っている。
達也はたく言い放つ。
「がどれだけ母さんの世話をしたか、君たちはらないだろう」
達也は続ける。
「排泄の介助も夜の付き添いも、全部がやった」
達也は受話器をく握る。
「仕事を削ってでも、病院へ通い続けたんだ」
恵子の泣き声がきくなった。
達也は問う。
「その、君たちはどこにいた?」
達也の問いに答えはない。