"「和裁しかできない」嫁と20億円の着物" 第8話
彩子が唐突にへ尋ねる。
「さん、何かもらったんですよね」
彩子の線は鋭くを見つめていた。
は答えに詰まった。
着物のことを言うべきかどうか迷ったのだ。
はさな声で答えた。
「着物を1枚……」
恵子が笑い声をあげた。
「着物?」
彩子も呆れたように首を振った。
「まさか、本当に着物1枚だけ?」
2の声にはらかな嘲笑が含まれている。
次男と男もさく笑っていた。
恵子が肩をすくめる。
「まあ、そういうですよね。兄嫁さんは」
彩子がを見ろした。
「裁しかできないが、枝の着物をもらう。お似いじゃないですか」
彩子の言葉がの胸に突き刺さった。
それでも何も言い返すことができない。
4は30分ほどでをてった。
結局何も持っていかなかったのだ。
最初から期待していなかったのだろう。
は1残された部で膝を抱えた。
窓のではのがを揺らしている。
悔しさとしみが胸の奥で渦巻いた。
自分は本当に愚かななのだろうか。
何も残らないことをバカにされるようなき方をしてきたのだろうか。
しかし、は枝の最の言葉をいす。
あの温かい差し。
『ちゃんは、本当によく頑張ってくれた』
その言葉だけが今のを支えていた。
部の隅には桐の箱が置かれている。
若の着物がそので静かに眠っていた。
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はゆっくりとちがった。
涙を拭いて窓のを見つめる。
川越の町はいつもと変わらぬ姿でそこにあった。
古い建物がのを受けて静かに佇んでいる。
の目にはもう涙はなかった。
代わりに静かな決のが宿っている。
何かが確実に変わり始めていた。
は部の気を消し、の扉を閉めた。
それから3が経過した。
枝がくなって3である。
は46歳になった。
今もで裁の仕事を続けている。
1でを守りながら毎着物を仕てていた。
の終わり、達也の孫のはるかの結婚式が決まった。
達也の女の娘である。
はるかはのことをとても慕ってくれていた。
はるかが嬉しそうに話で言ったのだ。
「おばあちゃん、結婚式に来てね」
もから祝福したいとった。
結婚式は都内のホテルでわれる予定である。
きちんとした装で席しなければならない。
はあの若の着物を着ていこうと決めた。
枝が最に残してくれた切な着物である。
3、桐の箱に切にしまっていた。
1度も袖を通していない。
結婚式の1週、は桐の箱をけた。
畳のに丁寧に着物を広げていく。
若のがのを受けて柔らかく輝いた。
襟元の刺繍も美しいままだ。
が経っても褪せない質な絹である。
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は着物を持ちげて、隅々まで確認する。
虫いがないか、シワがないか。
裁職として当然の作業だった。
その、何かが落ちた。
ストーンというさな音がする。
は元を見た。
畳のに古い封筒が落ちている。
封筒は茶く変していた。
いを経たというもろさがある。
は議にいながら封筒を拾いげた。
どこから落ちたのだろう。
着物の襟の裏を確認する。
そこにさな隠しポケットがあった。
そこにこの封筒が入っていたのだ。
気づかないほど見事に縫い込まれていた。
封筒には何もかれていない。
は恐る恐るをけた。
には古いの束が入っている。
に取って広げた。
それは株券だった。
はそのような類を見たことがほとんどない。
だが部に印刷された社名はっていた。
現の証プライムにしている製造会社である。
発を見ると、1970代と記されている。
のが震え始めた。
株券は1枚ではない。
封筒のには何枚も株券が入っていたのだ。
全て同じ会社のものである。
しかし発や株数がしずつ違っている。
は急いで達也に連絡した。
会社にいた達也はすぐに帰ってきてくれる。
達也が息を切らしながらに入ってきた。
「何かあった?」
は震えるで株券を差しした。
達也はそれを受け取って目を見く。
顔がみるみる変わっていく。
達也が株券を指差す。
「これ、母さんの着物から?」