"「和裁しかできない」嫁と20億円の着物" 第6話
「さん、本当にお疲れ様です。毎変ですね」
言葉は丁寧だった。
しかしその目にはたいがある。
恵子はさな声で続けた。
「で、お母さんの荷物なんですけど」
恵子は棚の方を指差す。
「貴品とか、どこに保管してあるんですか?」
は戸惑った。
貴品など考えたこともない。
は首を振る。
「特に何も……」
恵子は肩をすくめた。
「いえ、別に。ただで揉めたら嫌じゃないですか」
恵子はたく笑う。
「まあ、どうせ全部NPOにくんでしょうけどね」
その言葉には何も言えなかった。
恵子は5分ほどで病をてった。
お見いに来たというよりも、何かを確認しに来たようだった。
翌、男の嫁の彩子もやって来た。
彩子は産の菓子箱をに渡した。
彼女も病にく滞しなかった。
枝の様子を瞥しただけですぐに帰ってった。
帰り際、廊で彩子がに囁いた。
「さん、無駄なことしてますよね」
はその言葉を聞いて胸が締め付けられた。
彩子はそのままヒールを鳴らしてっていく。
無駄なこと。
自分のしていることは無駄なのだろうか。
はい取りで病に戻った。
病に戻ると、枝がさく目をけていた。
枝はの姿を見て、か細い声で呼ぶ。
「ちゃん」
はすぐにベッドのそばへ駆け寄った。
「はい、お母さん」
は枝のを優しく握る。
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そのは驚くほどたく、軽くなっていた。
枝がか細い声で尋ねる。
「あの子たち、来てた?」
はさく頷いた。
「はい。恵子さんと彩子さんが」
枝はしそうに目を閉じた。
涙が伝って落ちていく。
枝は絞りすように言った。
「ごめんね、ちゃん。あなたにばかり負担をかけて」
は必に笑顔を作った。
「お母さん、気にしないでください」
それから1週、枝の識が戻ることはほとんどなかった。
はベッドのそばで静かに座り続ける。
あるの夜だった。
夜2を過ぎた頃、枝が突然目をいた。
はすぐに気づいてを乗りす。
「お母さん」
枝はの顔をじっと見つめた。
その目には議ながある。
まるで最の力を振り絞っているようだった。
枝がか細い声で言う。
「ちゃん、あれを」
枝は線をに向ける。
「あれって、ベッドのの箱」
は言われた通りにベッドのを覗き込んだ。
そこにはさな桐の箱が置かれている。
誰が持ってきたのかはらなかった。
が箱を取りすと、枝が頷く。
「けて」
はゆっくりと箱の蓋をけた。
には美しく畳まれた着物が入っている。
淡い若の品な訪問着だった。
に触れた瞬、は息をんだ。
これは最級の絹である。
触りがの着物とは全く違う。
縫い目も驚くほど細かく丁寧だった。
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の声が震える。
「これは……」
枝がか細い声で続ける。
「私が昔、番切なお客様のために仕てた着物」
枝はし息をついた。
「でも、そのお客様がくなって、結局着てもらえなかった」
は着物を静かに広げた。
かりに照らされて、若のが柔らかく輝く。
襟元にはさな桜の刺繍が施されていた。
枝の目からまた涙が流れ落ちる。
「これはね、ちゃんにだけ渡したかった最の着物なの」
枝はのを握り返した。
「の子たちには見せなくていいよ」
枝は微かに首を横に振る。
「あの子たちは、この着物の価値なんてわからないから」
はもうできなかった。
涙が伝って落ちていく。
は着物を胸に抱き、声を押し殺して泣いた。
「お母さん……」
枝の声がさらにくなっていく。
「ちゃんは、本当によく頑張ってくれた」
枝はの顔を見つめる。
「私ね、ずっとってたの。ちゃんは私の本当の娘だって」
その言葉にの胸がくなった。
嗚咽が喉の奥から溢れてくる。
枝は目を細めた。
「あの子たちは、結局おのことしか考えてなかった」
枝はゆっくりと息を吐く。
「でもね、ちゃんは違った」
枝はか細いで、のをく握りしめた。
「ありがとう。本当にありがとう」
は泣きながら答えた。
「お母さん、私の方こそありがとうございました」
枝は静かに微笑んだ。
その笑顔は、苦しみから解放されたような穏やかさがある。
枝は着物を見る。
「この着物、切にしてね」