"深夜の義実家" 第1話
「静かにしろ。……すぐに乗れ。変なことが起きているんだ」
いの底から引きずりげられるようにして、私は乱暴に肩を揺さぶられた。 休みを利用して、夫の実へと帰省していた最のことだった。枕元の計が指す数字はおそらく夜を回ったところ。識は分いまどろみの膜に包まれたままで、まぶたをけることすらおぼつかない。 ――私は今、とんでもない悪を見ているのだ。 ぼんやりとした考ので、そう自分に言い聞かせる。朝になって目が覚めたら、夫にこの奇妙で恐ろしいの話を聞いてもらおう。そうい込み、私は再び沈みかける識をの内容へと集させようとしていた。 だが、肌を撫でる夜の空気は異様なほどたく、肩を掴む夫の指先からは痛覚すら々しく伝わってくる。やけにリアルなだった。
夫に腕を引かれ、私はふらつく取りのまま、わけも分からず寝を引きずりされた。音を忍ばせるようにして玄関を抜け、夜気配のち込める庭先へと踏みす。そのまま助席へと押し込まれ、夫もまた素く運転席へと滑り込んできた。 直、静寂を切り裂いて響き渡ったいエンジン音と体の振によって、私の脳裏を支配していた眠気は気に吹きんだ。 ――これはではない。
広告
現実だ。
「ちょっと……どうしたの? 急に何なのよ」 私は慌てて指先で目をこすり、隣に座る夫の横顔を凝した。 灯の暗いに照らされた夫・正彦の顔は、血の気が完全に引き、まるでのように青ざめていた。震える両でハンドルを固く握りしめ、方の暗を睨みつけている。 は義実の敷をびし、夜のへと滑りしていた。バックミラーや窓のには、まだ肉で義実の平の輪郭がはっきりと捉えられる。異常な事態に胸騒ぎを覚えた私は、シートからを乗りし、の様子を確認しようとキョロキョロと首を巡らせた。
その瞬、正彦が気と恐怖の入り混じった切迫した声で叫んだ。 「絶対にろを振り返るな! おは何も気づかなかったんだ、いいな!」 夫のただならぬ剣幕に圧倒されながらも、私は反射に助席側のサイドミラーへと線をらせてしまった。
ミラーの角い枠のに映しされた景に、息が止まる。 義実の玄関先、サーチライトのように照らされたかりのに、見らぬがっていた。黒尽くめのを着た、の屈な男たち。ミラー越しのため表まではうかがいれないが、そのつの黒いは、りる私たちのをじっと見送るように佇んでいた。
なぜ、こんな夜に義実のに見らぬ男たちがいるのか。
広告
混乱するので、私はこれまでの平穏だった々と、ここに至るまでの経緯をいそうとしていた。
私の名はあずさ。今で歳になる。 夫の正彦と結婚して、ちょうど目の節目を迎えていた。私たち夫婦のに子供はいないが、周囲の友たちからは「お似いの仲良し夫婦」と羨ましがられることがい。お互いに仕事で世界の国々を渡り歩く活を送っているため、子供を作る予定は今のところてていなかった。
私の職業は、旅系のインフルエンサーだ。 写真や画を投稿するSNSのアカウントには万を超えるフォロワーがおり、投稿の更はほぼ毎に及ぶ。世界各の絶景や現のグルメ、られざる文化を発信するのが私の役目だった。 そんな私と緒に旅を続けている夫の正彦は、もともとは誰もがるようなの定したIT企業に勤めるサラリーマンだった。だが、私と会って交際をねるうちに旅の魅力に目覚めたらしく、い切って会社から独することを決。現はフリーランスのITエンジニアとしてリモートで仕事を受けており、収入もかなり定して良い方だった。
結婚して目を迎えた頃から、私たちはどこか特定の所に定しない活を始めた。いわゆるアドレスホッパーとして、国内のホテルや滞先を転々としながら暮らすスタイルだ。
しかし、私の両親はこの活を頑として認めようとはしなかった。