"誇りの遺言と五千億の預金" 第18話
を起こしたが、正当に報われる――それこそが、あるべき世界の姿であった。
その週末、抜けるようなれの青空の、涼は、再び郊の営墓を訪れていた。
には、鮮やかなのと、母が好きだったい菊の束を抱えている。 墓の周囲を丁寧に掃除し、柄杓で澄んだをたっぷりと打ちした。てにを供え、束ねた線にをつける。柔らかない煙が、青く澄み渡るの空へと、どこまでも真っ直ぐにちっていった。
涼は静かに両をわせ、目を閉じた。
「母さん……報告に来たよ」
々の葉がサワサワとに揺れ、漏れが母の眠る墓を温かく包み込んでいた。
「俺ね……ずっとってたんだとう。母さんをあんなに苦しめたあののたちや、理尽な境遇に対して、、ずっとのどこかでり続けていたんだ。……でも、全てが終わってみたら、議なくらい、がすっきりしているよ」
涼は目をけ、墓に刻まれた母の名に、そっとを添えた。 たいの触の奥から、かつて自分の背を抱きしめてくれた、母のざらついたのひらの温もりが、じんわりと伝わってくるような気がした。
「母さんのは……底辺なんかじゃなかった。の汚れを拭いり、誇りを持って俺を育ててくれた。誰よりも尊くて、誰よりも誇りいだったよ」
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すうっと、筋のよいが吹き抜けた。 まるで、空の向こうから母が優しく微笑み、息子のを撫でてくれているかのような、温かなであった。
涼はスーツの内ポケットから、あの古びた革の財布を取りし、からつ折りの便箋を静かに広げた。 無数の折り目が擦り切れ、幾にもおしんできたそのには、今も変わらず、母の優しい跡が残されていた。
『涼へ。あなたは私の誇りです。どんなも、胸を張ってきなさい。母より』
涼はその文字を、慈しむように指先でそっとなぞった。 そして、今度は涙ではなく、れやかな笑顔を浮かべて、静かにを折り畳み、胸のポケットへと戻した。
「ありがとう、母さん」
涼はちがり、背筋を真っ直ぐに伸ばして、墓のへと続くを歩き始めた。 柔らかな漏れを浴びながらむその取りは、背負い続けてきたい鎖から完全に解き放たれたように、どこまでも軽やかであった。
がを値踏みし、見す、そのは体何を見ているのだろうか。 に纏うの値段だろうか。名刺に刷り込まれた肩きだろうか。あるいは、座に並ぶ数字の桁数だろうか。
しかし、としての本当の価値は、そんな側の飾りてとはまったく別の所にある。 どれほどにまみれようとも、誰かのために誠実に汗を流し、誇りくき抜くこと。
者の痛みに寄り添い、優しさを失わないこと。それこそが、決して奪われることのない真の気さなのだ。
翌週の曜。 価総額千億円を誇る巨IT企業のオフィスビルのエントランスに、いつものように量販の質素なスーツを着て、颯爽と社する島涼の姿があった。 もし誰かが彼に、「なぜそれほどの成功を収めながら、物のスーツを着続けるのか」と尋ねたなら、彼はきっと、穏やかな笑みを浮かべてこう答えるだろう。
「母が選んでくれたで、分ですから」と。