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"誇りの遺言と五千億の預金" 第15話

階の部で待っていると、製のドアが静かにき、涼が姿を現した。に纏っているのは、普段と変わらない質素なシャツとスラックスであった。

「……どうぞ、お入りください」

が静かに促すと、郎を先が玄関へとを踏み入れた。 広々とした空ではあるが、置かれている具や調度品は必限のものだけであり、成の豪華さとは無縁の、極めて端正で清潔なまいだった。

玄関ホールにを踏み入れたその瞬であった。

バサリ、と擦れの音が響いた。 歳になる取の郎と専務の梶原が、何のためらいもなく、フローリングのに両膝をつき、そのまま々と額をに押し当てたのである。

島社……! この度は、愚かな娘が取り返しのつかないご無礼を働き、貴殿の尊厳を著しく傷つけましたこと、衷より、くお詫び申しげます……!」

郎の震える声が、静かな玄関に響き渡った。 こので絶対な権力を握り、誰もがげてきた誇りが、いつくばって許しを請う姿。リカにとって、それはまれて初めて目にする、信じがたい景であった。

「……おちください。話はリビングで伺います。ソファーへどうぞ」

を荒らげることなく静かに告げ、たせるとリビングへと案内した。

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郎と梶原は恐縮しながら革張りのソファーの端に浅く腰をろした。リカは座ることすら許されず、の背ち尽くし、ただ刻みに震えながら俯いていた。

はその姿を見ても、溜がるような切湧かなかった。ただ、ここでに流されるわけにはいかなかった。き母の尊厳を守るため、そして理尽に虐げられてきた者たちのために、言うべきことは全て言わなければならなかった。

リビングの壁の央には、製のシンプルな写真てが飾られていた。 そこには、作業着姿の母・が、だった涼をしっかりと握り、満面の笑みを浮かべている写真が納められていた。

く息を吸い込み、郎の瞳を真っ直ぐに見据えた。

取。俺自が侮辱されたことについては、正直なところ、どうでもいいとっています。……ですが、くなった俺の母を愚弄し、そのを『底辺』と嘲笑ったことだけは、どうしても見過ごすことができません」 「……おっしゃる通りでございます。弁解の余など、片たりともございません……」

郎はく首を垂れ、悔の涙をに落とした。 涼はゆっくりと線をかし、背で震えるリカへと向き直った。その差しは、静かでありながら、魂の奥底まで見透かすようなみを持っていた。

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リカさん。あなたは、俺の母を『掃除のおばさん』と呼び、朝から晩まで働いて俺を育てげたそのを『底辺』と嘲笑った。そして、母が最期に残してくれたを『ゴミクズ』と言い放ち、の同窓で晒し者にした。……それが、名取の娘として、として、恥じることのない振るいですか?」

リカの肩がビクッとね、喉の奥からさな嗚咽が漏れた。郎は娘の隣で歯をいしばり、拳を固く握りしめていた。甘やかし、権力の傘ので育ててしまった己の教育の過ちが、老の胸を苛んでいた。

度、言葉を切り、静かに告げた。

「平成との取引を継続するための条件は、つあります」

郎が弾かれたように顔をげ、背筋を正して涼を見つめた。

つ目。リカさんの、からの謝罪。形だけのげではなく、自分が何を違え、誰の尊厳を踏みにじったのかを、自分自の言葉で語ること」

リカがさく息を呑んだ。

つ目。平成として、『全顧客に対する公平・公正な対応』を経営方針として確に文化し、社内へ宣言すること。預や社会位、職業やなりによってを差別する悪しき文化を、根底から根絶していただきたい」 「承いたしました……! 直ちに取締役会を招集し、経営理の改定に着いたします!」

郎が即座に答えた。そして、涼は静かに線を壁の写真へと向けた。

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