"誇りの遺言と五千億の預金" 第14話
「あ、私も……失礼します……!」
昨夜までリカの威に縋り付き、涼を緒になって嘲笑っていた友たちが、、またとリカから距を取り、群衆のへと姿を消していく。誰として、リカに声をかける者はいなかった。
その、フロアをかき分けるようにして、の男が猛烈な勢いで駆け寄ってきた。 平成常務の梶原であった。 梶原は額に脂汗を滝のように流し、ネクタイを歪ませながら、涼のへと滑り込むようにして々と腰を折った。その呼吸は乱れ、声は完全に擦っていた。
「き、島社……! お、お待ちください! 何かの違いでございます! 全額解約などと仰らず、どうか……どうかご再考を! 千億円もの資が夜にして引き揚げられるなどということになれば、当の自己資本比率は瞬で危険域に突入し、融庁の査察どころか、信用収縮で即座に取り返しのつかない経営危に陥ってしまいます!!」
百の同窓たちので、元財界の鎮であるはずの平成の専務が、必の形相で願している。その景は、あまりにも衝撃であった。
涼は、取り乱す梶原に対して、を交えない徹な線を静かに向けた。
「……梶原専務でしたね」 「は、はい! 梶原でございます!」 「先ほど、そちらの取のお嬢様から直々にお言いつけをいただきましてね。
広告
『貧乏は預するな』『零細企業の相をするは無駄だから今すぐ解約しろ』と、公衆の面でハッキリと仰いました。私はただ、取のご息女のり難いご指示に、忠実に従おうとしているだけですよ」
「ひっ……!」
梶原の喉から、蛙が潰されたような鳴が漏れた。梶原は血った目でリカを振り返り、鬼のような形相で睨みつけた。
「お、お嬢様……! 貴女は……貴女は体、何ということをしてくれたんだ……!!」
リカは唇をわななかせ、もはや言葉を紡ぐことすらできずにいた。全の力が抜け、そのにへたり込みそうになるのを、テーブルの縁を掴んで辛うじて支えている。
「ま……待って……島君、お願い……! さ、さっきのは、ただの冗談で……昔の同級同士の、ちょっとした軽じゃないの……!」
リカは震えるを伸ばし、涼のスーツの袖縋り付こうとした。 しかし、涼はそのを線だけでたくね除け、切触れさせなかった。彼にとって、もはやリカのなど界の端にも入っていなかった。
涼は静かに体を反転させると、呆然とち尽くしていた千佐の方を向いた。そして、先ほどの徹さが嘘のように、温かく柔らかな笑みを浮かべて語りかけた。
「千佐さん。今は本当に、ありがとう」
千佐は瞳に粒の涙をいっぱいに溜めながら、力く、何度も頷いた。
「涼君……」
広告
涼は千佐に向けて軽くをげると、百の同窓たちの静まり返った線を背に浴びながら、度も振り返ることなく、静かな取りで宴会をにした。
コツ、コツ、と響く涼の革靴の音だけが、完璧な静寂に支配されたフロアに響き渡っていた。 残されたリカは、ガタガタと震える膝を支えきれず、ドレスの裾を汚したまま、そのに崩れ落ちるようにして頽れた。テーブルのに置かれたシャンパングラスが倒れ、に広がっていく琥珀の染みを、彼女はただ、底れぬ絶望の瞳で見つめることしかできなかった。
同窓会の翌朝、午。 都の閑静な宅に佇む、涼の自宅マンションのに、台の黒塗りの最級国産セダンが音もなく滑り込んだ。
からりてきたのは。 平成の頂点に以君臨し続けてきた取・郎(歳)。昨夜、涼に必の懇願を繰り返した専務の梶原。そして、昨夜の華美なドレス姿とは打って変わり、化粧気のない蒼な顔にな黒のスーツを纏ったリカであった。
リカの目は真っ赤に充血し、まぶたは腫れがっていた。昨夜からもできず、の滴すら喉を通らなかったことはであった。かつて誇らしげににつけていた無数のブランド品は全て剥ぎ取られ、その姿には傲な令嬢の面など微も残っていなかった。
エントランスのインターホンを鳴らすと、い応答の、オートロックが解除された。