"誇りの遺言と五千億の預金" 第13話
「本当それ! 万円か、せいぜい万円の残の違いじゃないの!?」
取り巻きたちも斉にを叩いて腹を抱え、会のあちこちからも、あまりにも現実れした額に対する失笑と嘲笑が漏れ聞こえ始めた。
しかし――会の角、央のメインテーブル付では、まったく異なる異変が急速にしていた。
先ほど廊ですれ違った平成の常務取締役兼法営業本部、梶原隆が、スマートフォンをに押し当てたまま、猛烈な勢いでそのにちがったのである。 梶原の顔からは血の気が完全に引き、まるでのように真っに直していた。通話から漏れ聞こえる本部の統括役員からの号と鳴に、梶原のは刻みにガタガタと震えていた。
「な……何だと……!? バカな……! 劇テクノロジーズのメイン座から、全額解約の事通が入った……!? ご、千億円全額だと……!?」
梶原の震える掠れ声が、周囲の幹部席に伝播する。 それとほぼ同に、別のテーブルに座っていたの男性同窓が、弾かれたようにちがった。IT報誌の副編集を務めるその男は、スマートフォンの画面と涼の顔を何度も見比べ、信じられないものを見るように目を見いていた。
「……ま、まさか……あいつ、本当に……!?」
男の叫び声のような呟きが、周囲の同窓たちのにび込んだ。
広告
「おい、どうしたんだよ!?」 「あ、あの男……島だよ! おら、気づかないのか!? 国内最のクラウドインフラを牛る、価総額千億円企業――『劇テクノロジーズ』の創業者兼CEO、島涼社本だぞ!!」
「――な、何……!?」
そのの誰もが、を疑った。 「価総額千億円」「劇テクノロジーズ」「島涼CEO」――その単語が発せられた瞬、会全体を巨な見えない津波が襲ったかのような、凄まじいどよめきが巻き起こった。
「嘘だろ……!? あの、政府の基幹システムも掛けてる、あの劇テクノロジーズの!?」 「おい、スマホで検索してみろ! 『劇テクノロジーズ 島涼』だ!」
会のあちこちで、何百もの同窓が斉にスマートフォンを取りし、画面をタップし始めた。 そして、数秒と経たないうちに、絶句と鳴がフロアを埋め尽くしていった。
検索結果のトップに表示されたのは、本を代表する経済のトップインタビュー記事であった。 そこには、『国内ITインフラの覇者・劇テクノロジーズ 島涼社が語る未来』という見しと共に、今と同じ、穏やかでありながらい性を湛えた微笑みを浮かべる涼の顔写真が、画面いっぱいに鮮に掲載されていた。
につけているのは、今夜と同じ、飾り気のないシンプルなスーツ。 紛れもない、目のにつ男そのであった。
広告
「う、嘘だろ……本物だ……本物の島社だ!!」 「価総額千億……このどころか、県内全域わせてもぶっちぎりのトップ資産じゃないか……!」 「平成の総預額が兆千億……その割、千億円をたった社で預けてるって、超なんてレベルじゃないぞ! の命線そのものじゃないか!!」
事態の真相がのに晒された瞬、フロアはパニックにい混乱に包まれた。 質素な量販のスーツのに隠されていたのは、平成の総預の実に〇パーセントをに握る、の鍵を握る超・顧客という、誰もが像すら絶する本物の怪物であった。
リカの甲い笑い声が、途で引き千切られたようにピタリと止まった。 彼女の顔は、先ほどまでの真っ赤な潮から転し、陶器のように青く凍りついていた。にしたシャンパングラスを持つ指先が、カタカタと激しく震え、の黄い液体がドレスの裾へと滴り落ちる。
「う……嘘……嘘よ……そんなの、嘘に決まってる……!」
リカの声は掠れ、喉の奥から絞りすような喘ぎ声に変わっていた。 震えるで自のスマートフォンを掴み、画面を凝する。そこに表示されているのは、経済誌のインタビューに答える島涼の紛れもない姿であった。
「そん……な……」
リカの背にいた取り巻きの女たちは、事のさを本能で察し、蜘蛛の子を散らすようにしてずさり始めた。
「わ、私……ちょっとお洗いに……」