"誇りの遺言と五千億の預金" 第12話
「何よ、その目は!!」
リカはにしたグラスのシャンパンをにぶちまけんばかりに震わせ、顔を真っ赤にして絶叫した。
「あんたみたいなが、私にそんな態度を取れるだとってんの!? そういえばあんた、さっきパパのに座を持ってるって言ってたわよねえ!?」
リカは自らの髪を乱暴にかきげると、会の全員に聞こえよがしに、決定な言葉を叩きつけた。
「うちのパパの平成はね! 総預額兆千億円なのよ! あんたの会社の預なんて、そのと同じで、円の価値もないゴミクズ同然なの! うちのエリート員たちが、あんたみたいな零細企業の相をしてるすら税の無駄なのよ! だからさ、もし座を持ってるなら、今すぐ解約してちょうだい!」
リカは胸を反らし、勝ち誇った残酷な笑みを浮かべ、フロア全体に響き渡る声で叫んだ。
「――貧乏は、預しないで!!」
「貧乏は預しないで」
その鋭利で醜悪な言葉が、シャンデリアの輝く広なフロアの隅々にまで波紋のように広がっていった。 百の同窓全員が息を呑み、会はを打ったような完全な沈黙に包まれた。誰もが言葉を失い、ただち尽くす涼の姿を見つめていた。
涼のこめかみの奥で、血管がドクン、ドクンと激しく脈打っていた。
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界の端が赤く滲み、母の墓に供えたい百のが脳裏をよぎる。
(母さん……俺は、分に耐えたよな)
い、あまりにもい沈黙が流れた。 誰もが、涼が屈辱に耐えかねて泣き崩れるか、あるいはりに任せて鳴り散らすのではないかと息を殺していた。
しかし、涼のから漏れたのは、激昂の叫びではなかった。 涼はく、く、肺の底に溜まっていた息を静かに吐きした。そして、数百の線が突き刺さる静寂の、驚くほど静かで、どこまでも透き通った声で呟いたのである。
「……もう、いいか」
その微かな呟きを聞いたリカは、怪訝そうに眉をひそめ、首を傾げた。
「はあ? 何がよ。負け惜しみ?」
涼はリカの問いには切答えなかった。ただ、の切を削ぎ落とした静かな作で、スーツの内ポケットから黒いスマートフォンを取りした。
隣にいた千佐は、涼の横顔を息を呑んで見つめていた。 先ほどまで温で穏やかだった男の横顔から、切の迷いが消えっていた。その瞳の奥底で、巨な歯が鳴りのような音をてて噛みい、回転を始める気配を、千佐は肌でじ取っていた。
涼は慣れた付きで縮ダイヤルをタップし、端末をに当てた。
「何よ、話? 誰かに泣きつくわけえ?」
リカが嘲笑混じりに言うと、背の取り巻きたちも調子をわせてクスリと笑った。
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涼はその品な雑音を完全に識から遮断し、スピーカーから通話が繋がった音を確認した。
『はい、藤堂です。集計データをお送りいたしましたが、ご覧いただけましたでしょうか』
涼は静かにをいた。その声は、会の静寂を切り裂くように、凛として響き渡った。
「俺だ。……平成の座の件、方針が決まった」 『承いたしました。どのようにめましょうか』 「朝番で、全額引きしの続きをめてくれ」
話の向こうで、歴戦の秘が瞬だけ息を呑む気配が伝わってきた。
『……全額、でございますか?』 「ああ。千億、全額だ。円たりとも残すな。全てへ即移管しろ」 『畏まりました。直ちに特別対策チームを招集し、続きの配に入ります』
通話を切ると、涼はスマートフォンを静かに内ポケットへと戻した。
「千億、全額だ」 「円たりとも残すな」
その言葉が、マイクを通したわけでもないのに、静まり返った百の宴会の隅々にまで、驚くほど瞭に響き渡っていた。
数秒の、誰もが自分のを疑い、考を止させた。 そして――。
「――ぎゃははははは!!」
静寂を打ち破ったのは、弾けぶようなリカの爆笑の声だった。彼女は腹を抱え、涙を流しながらをヒールで踏み鳴らした。
「ご、千億!? 千億ですって!! あははは、お腹痛い! ちょっと島君、ゼロの数を数え違えてるんじゃないの!?」
「千億って……国予算レベルじゃん!」 「さえない量販スーツの会社員の座に、千億! 見栄を張るにも程があるでしょ!」