"誇りの遺言と五千億の預金" 第9話
誰もがその無慈さに激しいりを覚えながらも、誰も声をげることができなかった。「平成」というな板が、このにいる全員のを塞いでいたのである。
宅ローンを組むのも、事業資を借り入れるのも、この方都できていく以、平成の融資なしには成りたない。リカに逆らうことは、を敵に回すことであり、それはこのでの破滅をしていた。
リカは周囲の沈黙を、己の権力への畏怖であるとよく受け取り、さらに残酷な言葉をねていく。
「朝から晩までのこぼした汚れをいつくばって掃除して、自分の活すら満に豊かにできなかったんでしょう? あんな惨めななんて、きてるがあったのかしらね。虚しいだわ」
涼は奥歯が砕け散るほどく噛み締めた。こめかみの血管が青く浮きがり、界が真っ赤に染まりかける。
「でもまあ、ああいう底辺のが社会のゴミを拾ってくれるからこそ、私たちのような選ばれたが優雅に暮らせるのよね。配達してくれる、レジを打つ、掃除する……謝はしてあげてるわよ。応ね!」
リカの取り巻きたちが、引きつったような笑いを浮かべる。
「じゃあね、島君。またで。せいぜいさな会社で必に掻いて、お母さんみたいに倒れないように頑張りなさいよ!」
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勝ち誇った笑い声を残し、リカはドレスの裾を揺らしながら、次の獲物を探すように別のテーブルへとっていった。
残されたテーブルで、涼は静かにグラスを見つめ続けていた。琥珀の面に映る自分の瞳の奥底で、ずっと封印し、押し殺し続けてきた何かが、音をてて目覚めようとしていた。
(母さん……ごめん)
涼のので、かつて母と交わした「耐える」という約束が、静かに形を変えていく。 耐えることと、悪を無条件に許すことは、決して同じではない。
「……俺は、もう決めたよ」
涼が静かに呟いた、そのであった。
「――リカさん! もうし、言葉を選んだ方がいいんじゃないの!?」
静まり返っていた会の隅から、凛とした、しかし微かに震える女性の声が響き渡った。
同の線が斉にその声の主へと注がれる。ちがっていたのは、瀬千佐であった。歳になった彼女は、のあの教で、涼が理尽にいじめられているのをただ見つめることしかできなかった、あの女であった。
千佐の胸は激しく波打ち、全が恐怖で刻みに震えていた。もの、自分の無力さと卑怯さを悔やみ、罪悪を抱え続けてきてきた。今ここでまた黙って見過ごせば、自分は、自分自を許すことができなくなる――そのいだけが、彼女の震える脚をに踏みさせていた。
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千佐はリカのへとに歩み寄り、真っ直ぐにその瞳を見据えた。
「くなった方に対して、そんな侮辱な言葉を投げつけるなんて……として、絶対に違っているわ!」
リカはそうに眉を吊りげ、にしていたシャンパングラスをパチンと音をててテーブルに置いた。そして、千佐の顔をじっと見つめると、嘲笑を浮かべながら首を傾げた。
「あらあ、瀬さん? 久しぶりねえ。……確か、あなたのご主、元のさな属加会社にお勤めだったわよね?」
千佐の体が、ビクリと直した。
「先、うちの平成に、の設備投資のために千万円の追加融資を申し込んでいたんじゃないかしら?」 「……っ! それは……」 「もしその融資が通らなかったら、ご主の会社、どうなっちゃうのかしらねえ? 連鎖倒産かしら? に迷うことになっても……私はらないわよ?」
リカは満面の笑みを浮かべていたが、その瞳には蛇のような徹な脅迫が宿っていた。 千佐の顔から瞬にして血の気が引いた。自分が正義を振りかざしたせいで、夫の会社が潰れ、族が破滅するかもしれない。夫の必に働く姿が脳裏をよぎり、千佐は喉を詰まらせ、両をギュッと握りしめて俯いた。
「……ごめんな……さい……」
恐怖に屈し、絶望に暮れながら席へ戻ろうとした千佐の肩に、ふっと温かいが置かれた。
「千佐さん」