"誇りの遺言と五千億の預金" 第4話
そして数、取り返しのつかない決定な事件が起きた。
そのの午、は本ビルの階、役員へと続くい廊で定期のワックス掛け作業をっていた。塗りてのワックスは非常に滑りやすく危険であるため、は廊の両端に黄い「清掃・元注」の警告板をて、モップで均等に液を伸ばしながら慎に作業をめていた。
そこへ、カンカンと甲いヒールの音を響かせながら、リカが同級の取り巻きを連れてやってきた。父親である取に遣いをねだるためにち寄ったところであった。
はリカたちの姿を界に捉えると、すぐにモップを止め、丁寧に腰を折って声をかけた。
「お嬢様、変申し訳ございません。ただいまにワックスを塗ったばかりで、変滑りやすくなっております。恐れ入りますが、あちらの側の通へお回りいただけますでしょうか?」
至極当然の全配慮であった。しかし、先の屈辱を根に持っていたリカにとって、の制止は自分に対する指図であり、耐え難い侮辱にじられた。 リカはの顔を淡に見ろすと、馬鹿にしたような笑みを唇の端に浮かべた。
「私に指示しないでよ。ここはうちのパパのよ? 私がどこの廊を歩こうと、私の自由でしょうが」 「ですがお嬢様、本当に滑りますので危険です! お怪をされては変ですから――」
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が必にを伸ばして制止しようとしたその瞬、リカは警告を完全に無し、を見せつけるように睨みつけながら、りしたのである。
「通るわよ!」
ワックスがく塗られたピカピカのに、革張りのヒールが勢いよく着した。次の瞬、リカの元がまるで氷のを滑るように虚空を泳いだ。
「きゃっ――!?」
い鳴と共に、リカの体がきく宙に浮きがった。派な音をてて背からへと叩きつけられ、その倒れた衝撃で、廊の脇に置かれていた清掃用の型バケツが派に横倒しになった。
バケツのに溜まっていた、の埃や古いワックスが溶け込んだ真っ黒な汚が、波打つようにして倒れたリカのへと容赦なくり注いだ。
バシャアン――!
苦しい音が廊に響き渡り、瞬の静寂が訪れた。 リカの純の制のシャツは見るもなく黒ずんだ汚で濡れそぼり、に投げされた級ブランドの革製スクールバッグにも、のような液体がたっぷりと染み込んでいた。
「…………」
廊の奥から様子を伺っていた数の員たちのから、堪えきれない微かな息が漏れた。
「……ぶっ」
誰かがさく吹きした、押し殺したような失笑の音。 その音は、静まり返った廊ので驚くほど瞭にリカのへと届いた。
汚にまみれてに転がる自分。
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見げた先には、引きつった笑みを必に噛み殺しながら自分を見ろす員たちの顔があった。 リカの顔が、羞恥と屈辱、そして激しいりによって、瞬にして沸騰したかのように真っ赤に染めげられた。
注を無してったのは、ならぬ自分自である。そんなことは、子供でも分かるな事実だった。しかし、甘やかされて育ち、己の非を認めたことなど度もないリカののに、そんな理はしなかった。 リカの剥きしの憎悪は、目ので青ざめているへと直線に向けられた。
「……あんたが! あんたがこんなところにバケツなんか置いてるからでしょ!!」
リカは濡れそぼった髪を振り乱しながら絶叫した。
「何してくれてんのよ! この靴、いくらするとってんの!? このバッグも限定品なのよ!」
は即座に両膝をたいにつき、にした乾いたタオルで必にリカの元や制の汚れを拭い取ろうとした。
「申し訳ございません! 本当に、申し訳ございません……! お怪はございませんか!?」 「触らないでよ! 汚い! 汚らわしいで触るんじゃないわよ!」
リカはのを激しく払いのけた。背にいた取り巻きの女たちも、骨に嫌悪の表を浮かべながら煽りてる。
「うわ、最悪……リカちゃんのバッグ、完全にまでが染みてるじゃん」
「弁償、全部弁償させなよ! パパに言って、こんなババア、今にクビにしてもらいなよ!」