"誇りの遺言と五千億の預金" 第2話
づいてきたウェイターに、さく元をげて声をかける。
「すみません、温かい烏龍茶を杯いただけますか」 「かしこまりました。烏龍茶をお持ちいたします」
グラスを受け取ると、涼は静かに両を添え、琥珀の液体の表面を見つめながら、会全体の様子を静かに見渡した。
「うちの男がさ、今から私の医学部に現役で格してね」 「へえ、すごいじゃない! 将来泰ね」 「うちなんて、この都の等に投資用マンションをもう棟買い増したところでさ、管理が変で」
あちらこちらから、ブランド品の自や子どもの学先、産投資や事業の成功譚といった、己の豊かさを誇示しう会話の断片がにび込んでくる。涼はそのどれにも加わろうとせず、ただ静かにグラスの縁を見つめ続けていた。
琥珀の液体に、照のと共に微かに映り込む自分自の顔。 その頼りなく揺れる面の向こうから、のい記憶が、たい痛みを伴ってゆっくりとちがってきた。
涼の母・島は、こので絶対な権力を誇る方「平成」の本で働く、介の清掃員であった。
毎朝、まだの空がむの午、暗くえ切ったをて、母はへと向かった。な理で覆われたロビーのをモップで磨きげ、役や執務のゴミ箱をつつ回収し、窓ガラスの汚れを拭いる。
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の営業が終われば、再び夕方から夜遅くまで、員たちが退社したの広いフロアを隅々まで清掃して回った。
それだけでは活費と涼の学費を賄うことができず、の休みのには別のビルや商業施設の清掃現へと入り、母が体を休める暇などたりともしなかった。になれば、での雑巾掛けによって母のは赤く腫れがり、指先には無数の痛々しいひび割れがっていた。 それでも母は、涼のでただの度も音を吐いたことがなかった。
「涼、お母さんはね、この仕事に誇りを持っているのよ。みんなが気持ちよく働けるように所を綺麗にする。とても素敵なお仕事じゃない」
そう言って笑う母の笑顔は、どんなにやつれていても温かかった。
当の平成は、この方都において絶対な響力を持つ融関であった。元の企業で平成の融資を受けていないところはなく、政や商の隅々に至るまで、その響力は網の目のように張り巡らされていた。 その平成の頂点に君臨していたのが、取の郎であった。そして、郎が目に入れても痛くないほどに溺していた娘が、リカだったのである。
リカは、幼い頃から当たりのようにの舗や本の執務フロアに入りしていた。
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取の娘というただそれだけの理由で、涼の母と同代かそれ以の齢の員たちが、リカの姿を見かけるたびに直の姿勢を取り、々とをげていた。
「リカお嬢様、いらっしゃいませ。本もお美しいですね」 「リカ様、おみ物をお持ちいたしましょうか?」
制姿の女性員がペコペコとをげながら尋ねると、当まだ学だったリカは、相の顔も見ずに尊に言い放つのが常であった。
「アイスのカフェオレ。氷はなめでね。くしてよ」 「か、かしこまりました! ただいま急いでお持ちいたします!」
まだ端もいかない女に対して、分別あるの員たちがいつくばるようにして傅く異様な景。しかしリカにとって、それは物ついた頃から繰り返されてきた常のコマに過ぎなかった。 取の娘である自分は、この世で最も特別で、選ばれたなのだ。誰もが自分に傅き、平伏すのは当たりのことなのだ――。
そうした歪んだ万能が、幼いリカののに分く根を張っていった。 しかし、たちの本音はまったく別のところにあった。リカがフロアをった、湯や喫煙所からは常に員たちのいため息と怨嗟の声が漏れていた。
「……お嬢様が本に来ると、本当に胃が痛くなるよ」 「しでも気にわないことがあれば、すぐに取へ告げされるからな」