"誇りの遺言と五千億の預金" 第1話
そのは、涼の母・島の命であった。
暮れなずむ夕刻のが、郊の丘陵に広がる営墓を茜に染めげていく。を抜けて吹き抜けるが、枯葉をカサカサと鳴らしながら通り過ぎていった。 涼は、綺麗に入れされた簡素な墓のにち、持参したい百の束を丁寧に向けた。そして、両を胸のでわせ、々とを垂れる。
墓の側面に刻まれた文字を、涼はおしむように指先でそっとなぞった。
『島 享歳』
母がこの世をってから、いものでの歳が流れていた。涼が学を卒業し、ようやく社会にて自し始めた矢先の来事だった。過労による突然の病に倒れ、息子がに成した姿をゆっくりと見届けるもなく、母は駆け抜けるように逝ってしまった。
「母さん……今、同窓会があるんだ」
涼は目を閉じ、墓に向かって静かに語りかけた。夕暮れのたいが、彼の頬を優しく撫でていく。まるで、たいので眠る母が、優しく息子の言葉にを傾けているかのようだった。
「あのが……しでも、変わっていたらいいんだけどな」
そこまでにして、涼は自ら言葉を呑み込んだ。続きの言葉は胸の奥へと押し戻し、それ以は声にしなかった。 しばらくの、夕が迫る墓をじっと見つめていた涼は、さく息を吐きすと、曲がりかけていた背筋をピンと伸ばした。
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スーツの着のから、胸のポケットにそっとを当てる。革の財布のに切にしまい込んである、つ折りにされた古びた便箋。幾にも折り目が擦り切れ、経によって茶に変したそのは、今も涼の胸板を通して、微かな、しかし確かな温もりを放っているようにじられた。
『あなたは、私の誇りです』
母の几帳面な跡で残された、たったのその言葉。その温もりだけが、荒波のような激の歳ので、涼のの全てを支え続けてきたのだった。
「ってくるよ、母さん」
涼は墓に向かってく告げると、度く礼し、静かに踵を返した。
都にある級ホテルの壮麗なエントランスに涼が辿り着いたのは、すっかりが沈み、夜の帷がりた頃であった。 ホテルのロータリーには、次から次へと黒塗りのハイヤーや最型の国産級セダンが滑り込み、艶やかなドレスや級なスーツにを包んだ同窓たちが、誇らしげな笑顔を浮かべながらりっていく。 そんな華やかな景のを、涼は最寄りの鉄の駅から、たいを受けながら分ののりをで歩いてやってきた。
涼のに纏われているのは、量販の吊るし売りで買ったくたびれた濃紺のスーツであり、元を包むのは、幾度も入れを施しながら履き潰してきた、踵の擦り減った革靴だった。
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き交うホテルのドアマンや着飾った客たちの線が、瞬だけ訝しげに涼の元に落ちるが、涼自は気れする様子もなく、落ち着いた取りで自ドアをくぐった。
フロントのにつと、案内係の女性スタッフが恭しくをげ、元の名簿に目を落とした。
「島涼様ですね。本の同窓会の会は、階の宴会でございます。エレベーターでおがりください」 「ありがとうございます」
涼は穏やかな会釈を返すと、の装飾が施されたエレベーターへと乗り込んだ。
な扉が静かにき、階の宴会のにりつ。ホワイエを抜けて巨な両きの扉を押しけると、眩いばかりのシャンデリアのと共に、幾にもなりう華やかな笑い声と、むせ返るような級のりが斉に押し寄せてきた。
会内には、男女わせて百い同窓たちがひしめきっていた。かつての面を残しつつも、それぞれがという歳を経て、社会位や富を誇示するかのように着飾っている。井からは無数のクリスタルが煌めき、仕たちがのトレイに載せたシャンパングラスを忙しなく配り歩いていた。
涼は、その煌びやかな喧騒の輪に加わることなく、会の最も端、壁際に置かれたさな円卓の丸子にで腰をろした。