"妊娠中の娘が逃げ帰った夜、大富豪の母が動いた" 第1話
夜過ぎ。港区、閑静な台に佇む層プライベートマンションの最階。 ピンポーン――静寂を切り裂くように鳴り響いたインターホンの音に、リビングのソファで読をしていた佐藤エリコ(歳)は、咄嗟に眉をねげた。
オートロックを通さず、玄関のチャイムが直接鳴る。 解錠して扉を引きけた瞬、エリコの界にび込んできたのは、異臭と血の匂いにまみれた悪だった。
「お……お母、さん……」
細く掠れた声とともに崩れ落ちてきたのは、実の娘・はるか(歳)だった。 妊娠ヶ。にきく突きたお腹を両腕で必に抱え込み、膝をついてにへたり込んでいる。 その姿を見た瞬、エリコの臓が凍りついた。
の瞼は赤黒くピンパンに腫れがり、目は内血で濁った血のに染まっていた。 切れた唇からは顎を伝って鮮血が滴り落ち、オフホワイトの質なマタニティドレスの胸元を赤黒い染みで汚している。 わになった首には、指でく握り潰されたような青の鬱血痕が、幾にもなりっていた。
「はるか……! 体、誰に……!」
エリコはに膝を突いて娘の体を抱き起こした。 触れた肩が、まるで真の鳥のように激しく震えている。 娘の体からは、級のりを塗り潰すような、々しいアルコールの臭気と、乾きかけた血液の鉄臭さが漂っていた。
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「……匠さんが……夕飯の、ときに……急に、暴れして……」 はるかは腫れがった元を歪め、痛みに顔を歪めながら途切れ途切れに呟いた。
「『その腹の子は、本当に俺の種なのか』って……突きばされて……お腹を、何度も……」
「……」
エリコの表から、のすべてが抜け落ちた。 りの叫びも、揺の涙もなかった。 ただ、怜悧な刃物のようなが、その瞳の奥くでスッと音をてて宿った。
「救急は呼ばないわ。……私のでく。はるか、しっかりしなさい。お腹の赤ちゃんを守るのよ」
エリコはクローゼットからカシミアのロングコートを引っ張りすと、震える娘の体を優しく、しかし迅速に包み込んだ。 そして、駐に待させてある自式の型セダンへと娘を抱きかかえて滑り込ませた。
向かう先は、港区内の学病院の夜救急来。 アクセルを踏み込むエリコの横顔は、灯の青いに照らされ、能面のように静まり返っていた。
彼女が嫁いだ先は、本数の巨財閥『神聖グループ』。 夫は、その核企業である神聖建設の副会にして、創業族の御曹司・斎藤匠(さいとう・たくみ、歳)。 世が羨む玉の輿婚の裏で、娘がどのような獄に閉じ込められていたのかを、エリコはこの夜、初めてその目で突きつけられたのだ。
病院へ向かう内、スマートフォンの画面が淡くった。
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助席で識を朦朧とさせているはるかの端末に、夫・斎藤匠からのメッセージが届いていた。
【おい、どこへ消えた。実に逃げ込んだらタダじゃ置かないぞ。神聖グループの嫁が気な真似をするな】
エリコは娘の指からその端末を抜き取ると、画面の表示を無言でオフにした。 そして、バックミラーに映る自分の瞳を見つめ、く囁いた。
「……ええ。タダでは置かないわ。神聖グループ、斎藤……あなたたちのすべてを、こので終わらせてあげる」
午、聖マリアンナ記病院の救急処置。 い蛍灯の無質なの、超音波検査のエコー画面が、ドク、ドク、と力い胎児の拍音を響かせていた。
「……奥さん、聞こえますか。赤ちゃんの音は極めて力いです。胎盤期剥の兆候も、今のところは見られません」
当直の産婦科医の言葉に、処置台ののはるかがようやく堵の吐息を漏らし、涙を溢れさせた。 だが、続いて診察に入ってきた救急科部の初老の医師の表は、極めて厳格だった。
「お母様、別でレントゲンとCTの画像をご確認いただきたい」
エリコは静かに頷き、医師のを追ってカンファレンスルームへと入った。 シャウカステンに並べられた枚の胸部レントゲンフィルム。 医師は指示棒の先で、はるかの胸の肋骨をコツコツと叩いた。
「ご覧いただけますか。第肋骨、ならびに第肋骨に、骨折の治癒痕――つまり、完全に骨がくっつきかけた古いひびが確認できます。