"薬を忘れて戻ると、「歩けない」夫が立っていた" 第5話
その瞬、健太の目が丸く見かれ、全が直した。
「な……んで、それを……」
「あなたをつけてったからよ。あなたが誰と会い、どこへ入っていったのか、すべて写真に撮ってあるわ」
佐織はテーブルのにスマートフォンを置き、画面をタップして先ほど撮したビルの写真を突きつけた。
健太の顔は、を通り越して気へと変していた。膝のに置かれた両が、目に見えてガタガタと震えている。
「あ、あれは……友達に紹介された、ただの相談で……」
「傷病当を受しながら、会社の診断を偽って休職を引き延ばし、融業者に入りする。健太、あなた体何をやっているの? 共座から引きした100万円はどこへ消えたの?」
「おには関係ないだろ!」
追い詰められた健太が、突然ちがって鳴り声をげた。その作には、腰の痛みを気にする素振りなど微もなかった。
「俺が稼いだだ! どう使おうと俺の勝だろ! おは黙って俺の言う通りにをして、のことをやってりゃいいんだよ!」
その言葉が落ちた瞬、佐織の胸ので、これまで夫に対して抱いていた最のの糸が、プツリと音をてて千切れた。
「私が稼いだ?」佐織は静かにちがり、夫を見ろした。「宅ローンを払った残りの活費、費、費、あなたの医療費、そのすべてを私の与からしているのをっていて言っているの? あなたのその勝な振るいを支えるために、私はを使い果たし、眠を削って尽くしてきたのよ」
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その、テーブルののスマートフォンが甲い着信音を鳴らし始めた。ディスプレイにる発信者名は『母さん』。
佐織は迷うことなく画面をスワイプし、スピーカー通話に切り替えた。
『もしもし! 佐織さん!? 健太から連絡があったわよ、タクシー代を自分で払わされたって! 体どういうつもりなの!? 病にで移させるなんて、嫁として何を考えてるの!』
話からびしてきたヒステリックな切り声に、健太が青ざめて「母さん、やめろ!」とを伸ばしかけたが、佐織がそのを鋭いで制した。
「お義母さん。健太さんはもう、のなら普通に歩けるそうですよ」
受話器の向こうが、ピタリと静まり返った。
「クリニックの先から伺いました。3週もから、リハビリのために歩を推奨されていたそうです。……お義母さんも、健太さんが歩けることをごでしたよね?」
『そ、それは……』数枝の声が目に見えてずった。『だって、まだ無理をさせちゃいけない期じゃないの! 佐織さんがをしてくれれば健太もだし、夫婦なんだから、しくらい甘えさせてあげたっていいじゃないの!』
「甘え?」
佐織のから、たい乾いた笑いが漏れた。
「甘えたいなら、最初から『で送ってほしい』と言葉で頼めばいいんです。歩けないと嘘をついて、私に『断る』という選択肢を奪うのは、甘えではありません。
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ただの卑劣な搾取です」
『さ、佐織さん、何を気な……!』
「お義母さん、これからは健太さんの送迎は切いたしません。実へきたければ、を使うなり、ご自分でタクシー代を払うなりしてください。私には私の活があります。もう度と、私のを無断で奪わないでください」
佐織は義母の返答を待たずに通話終ボタンを押し、源を落とした。
リビングには、再び苦しい静寂が戻ってきた。ち尽くす健太を見据えながら、佐織は徹に告げた。
「から、自分のことはすべて自分でやってちょうだい。度と、あなたの嘘には付きわないわ。……それと、神田の件と引きしたおのことは、週けに詳しく説してもらうから」
佐織は寝へ向けて踵を返し、内側からしっかりと鍵をかけた。暗のでベッドに腰をろすと、疲労とともに、得体のれない戦いが始まったのだという確信が胸を満たしていた。
曜の朝、キッチンの空気は凛と張り詰めていた。
佐織は自分の分だけのトーストとブラックコーヒーを用し、ダイニングテーブルで静かにに運んでいた。いつもなら、健太が起きしてくる30分からシャツにアイロンをかけ、朝を温め、彼が玄関で履く靴まで揃えて待していた帯である。