"薬を忘れて戻ると、「歩けない」夫が立っていた" 第4話
そうい至った佐織は、スマートフォンのバンキングアプリを起し、夫婦の共座の履歴を遡った。
普段の活費は佐織の与座から引き落とされ、健太の与は宅ローンの返済と、将来のための定期積に回されているはずだった。しかし、半に定期積の普通預座への自振替が、健太のによって解約されていた。
さらに、先と今、健太の座からまとまった現——それぞれ50万円、計100万円が窓で引きされていた。
傷病当が振り込まれるそばから、自然なが消えている。
佐織はえ切った指先でハンドルを握り直した。
ただの甘えや怠ではない。夫は何か、取り返しのつかない沼にを突っ込んでいる。そしてその沼の片棒を、妻である自分に「介護」という美名のもとで担がせようとしているのだ。
夕方になっても、迎えにはかない。
佐織はスマートフォンの源を落とし、自宅へ向けてアクセルを踏み込んだ。
夜の8半を回った頃、玄関の鍵がガチャリとき、々しい音が廊に響いた。
佐織はリビングのダイニングテーブルに座り、井の照を消したまま、元のテーブルライトのかりだけで類に目を通していた。
「……おい、佐織! なんで迎えに来ないんだよ! 話も源切れてるし!」
苛ちを隠そうともしない健太の声だった。
広告
玄関に置いてあった折りたたみ式の簡易杖をげさにに突きて、を引きずるような取りでリビングのドアをけて入ってくる。
佐織が静かに顔をげると、パッと広がったかりのに、健太の嫌そうに歪んだ顔が浮かびがった。
「暗がりで何やってんだよ、気の悪い。母さんに泣きついて、わざわざタクシー呼んでもらって帰ってきたんだぞ。がいくらかかったとってんだ」
健太はそう吐き捨てると、わざとらしく「痛てて……」と腰を押さえ、ソファの端へと乱暴に体を沈めた。
「で、俺の薬は? 母さんから忘れたって聞いたけど、どこに置いたんだよ。く持ってきてくれ」
佐織はちがることなく、元の湯呑みを静かに置いた。その瞳のあまりのたさに、健太は瞬気圧されたように言葉を詰まらせた。
「薬なら、届けるために度お義母さんのに戻ったわよ」
「は……? 戻った? じゃあなんでがってこなかったんだよ。母さんも気づかなかったって言ってたぞ」
「玄関のドアをけようとしたら、からあなたの楽しそうな声が聞こえてきたからよ」
健太の眉がぴくりとねた。
「楽しそうな声って……何のことだよ」
佐織は線を逸らさず、く、透き通るような声で紡ぎした。
「『あいつ、ちょうど今をしたところだよ。嫁は帰った。
広告
今からそっちへくから待っててよ』……そう言って、あなたは子からすっとちがって、自分のでスタスタと廊を歩いてったわ」
リビングの空気が、瞬に氷点まで凍りついた。
健太の顔から、目に見えて血の気が引いていく。唇が刻みに震え、泳ぐ線が定まらない。
「な、何を言って……見違いだろ、そんなの。俺がてるわけないじゃないか」
「見違いじゃないわ。磨りガラス越しに、あなたの姿をこの目でしっかりと見たもの。そのあと、私、どこへったとう?」
健太は喉を鳴らし、固唾を呑んだ。
「あなたが通っているクリニックよ。先に、今の介護について相談してきたわ。『健太さんは3週から内での自由歩の許がていますよ』って、とても議そうな顔をされたけれど」
「っ……!」
健太は息を呑み、完全に言葉を失った。
言い逃れの余を完全に断たれた男の醜い揺が、その引き攣った表にありありと浮かんでいた。沈黙がく部を支配する、健太は絞りすような掠れ声で呟いた。
「……完全に、治ったわけじゃないんだ。まだい距を歩くと痛むし、もし途で倒れたら危ないだろ。だから、用のために子を使ってただけで……おを騙すつもりなんて……」
「用?」佐織はたく微笑んだ。「用のために、私の肩に体をかけて苦しそうな顔をしていたの? 用のために、平の夜も靴ひとつ自分で履こうとせず、私をこき使っていたの? ……それとも、神田駅の『ファイナンシャル』にくためなら、痛みも忘れて元気にりで歩けるのかしら」