"薬を忘れて戻ると、「歩けない」夫が立っていた" 第2話
佐織は音を忍ばせ、歩、また歩と扉のへずさりした。
乾いたが、佐織の乱れた髪をたく撫でて通り過ぎていった。
に戻り、運転席のドアを閉めると、密閉された空に自分の荒い呼吸音だけが響いた。
佐織は震えるでスマートフォンを取りし、載ホルダーに固定した。エンジンを始させようとしたその、元の画面が震え、義母の数枝からのメッセージがポップアップした。
『健太は薬をんで奥の部で寝てしまいました。夕方にはまた迎えに来てあげてね』
吐き気を覚えるほどの嫌悪が胃の底からせりがってきた。
夫がの理由を誤魔化し、妻を都のいい配分で呼び戻すための、用周到な嘘の連絡。母と息子が示しわせ、自分というを完全に無の介護タクシーとして操っていたかぬ証拠だった。
佐織はメッセージに返信することなく、画面を伏せて助席に放り投げた。
「今からそっちへく」と健太は話で言っていた。
子を使わず、自力で歩いて向かう先とは体どこなのか。実の最寄り駅までは徒歩で15分かかる。の自由なが歩ける距ではないが、今の健太なら分に歩いてけるはずだった。
佐織はエンジンをかけ、実のの細いを抜けすと、数百メートルれたコインパーキングにを滑り込ませた。
広告
をり、サングラスをかけ、目たないように宅の角にを潜める。
5分も経たないうちに、実の玄関がき、の男が姿を現した。
キャップを目に被り、黒のウィンドブレーカーにジーンズを穿いた健太だった。背には普段使っているリュックを背負い、には杖すら持っていない。の全を素く確認すると、りにい速度で駅の方角へと歩きした。
佐織は喉の奥がカラカラに渇くのをじながら、定の距を保ってそのを追った。
健太の歩き方には、退院直のあの痛々しさは微もなかった。折スマートフォンの画面を確認しながら、取り軽く駅の改札を抜け、り方面の速に乗り込んでいく。
佐織は両ろの両に乗り込み、吊革に掴まりながら、ガラスに映る夫の部を見つめ続けた。
彼が向かったのは、都のターミナル駅から駅れた、雑居ビルがち並ぶ商業エリアだった。曜の昼がり、くので賑わう駅通りを、健太は慣れた様子ですり抜けていく。
そして、彼が軒の季の入ったビルのでち止まり、待っていた物と流した瞬、佐織は息を呑んだ。
待っていたのは、派なストライプのジャケットを着たの男と、類鞄を抱えた見らぬ若い女だった。
広告
健太はその男と親しげに肩を叩きい、笑い声をげながら、ビルのへと続く階段をりていった。
ビルの袖板には、『ファイナンシャルコンサルティング』と『リース京支社』の文字が並んでいた。
病院でも、友のでもない。融業者が入る雑居ビルに、会社を傷病休職の夫が、妻を騙してまで通う理由とは体何なのか。
疑は単なる族の裏切りを超え、よりく穏なの匂いを漂わせ始めていた。
佐織は雑居ビルのへ続く階段を凝したまま、数分そのからくことができなかった。
の踊りからは、い防音扉の閉音と、折漏れ聞こえる無質な話のコール音だけが響いてくる。休職の健太が、休の昼にこうした所に入りしていること自体が常軌を逸していた。
しかし、ここで踏み込んで問い詰めるのは得策ではない。相が何者かも分からず、何の証拠も持たない状態で騒ぎてれば、健太はいくらでもそのしのぎの言い訳を作りし、逃げを固めてしまうだろう。
佐織はスマートフォンのカメラを起し、健太が入っていったビルのテナント案内板と、入の階段を静かに撮した。
踵を返し、駅へと向かう取りは、先ほどまでの激昂とは打って変わり、え切った静さに支配されていた。
向かうべき所は決まっていた。健太が術を受け、現も週に回のリハビリ通院を続けている「総病院」