"入学式の日、愛人を選んだ夫への「お祝い」" 第10話
子どもの無邪気で、けれどすべてを理解しているその言葉に、私の胸の奥がくなった。 義母もまた、ハンカチでを抑えながら、「本当に自の孫だわ」と何度も呟いていた。
その幸せなのろ姿を、通りの反対側の柱のから、ボロボロの作業着を着たの男が、血った目で見つめていることなど、私たちは誰も気づいていなかった。
料亭での会を終え、夕暮れに自宅マンションのエントランスへ戻ってきたのことだった。
オートロックの自ドアの脇、植え込みのから、異様な臭気を放つがフラフラといしてきた。
「……カ、カナ……美……」
掠れた、しゃがれた男の声。 振り返った私は、息を呑んだ。
そこにっていたのは、代半にしては髪交じりのくなった髪、無精髭に覆われた浅黒い顔、そしてで汚れた作業着を着た――健吾だった。 かつて商社のエリート気取りで、ブランド物のネクタイを自していた男の面は、どこにもなかった。
「ひっ……!」 美が怯えて私の背に隠れる。
「健吾……!? あなた、どうやってここへ……」
私が警戒して歩退ると、健吾は両を擦りわせ、面に膝をついて擦り寄ってきた。
「頼むよ、カナ……! 俺が悪かった! 俺が全部違ってたんだ! あの女には逃げられ、仕事も失い、雇いの事でいつなぐ毎なんだ! 腰も痛めて、もう限界なんだよ……!」
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健吾の目から、濁った涙がボロボロとこぼれ落ちた。
「美、パパだよ! おの父親だぞ! 今はおの卒業式だって聞いて、んできたんだ! 頼む、もう度やり直させてくれ! 族……いや、お袋も緒に、あの頃みたいに暮らそう! 俺をこのに入れてくれぇぇっ!!」
アスファルトに額を擦り付け、通の目を気にすることもなく泣き叫ぶ元夫。 その醜悪な姿に、私はりすら湧かず、ただい嫌悪を覚えるだけだった。
「寄らないで」
私のたいに、健吾がすがるように顔をげた。
「カナ……?」
「あなた、自分が何をしにここへ来たのか分かっているの? 、この子の入学式のに、と役所で婚届をすと言って私たちを捨てたのはあなたよ。美のランドセルも見ず、度の養育費も払わず、今さら父親面してすがりついてくるなんて、恥をりなさい」
「だ、だから謝ってるだろ! 俺は反省したんだよ! 族なら許してくれるのが普通だろ!!」
逆ギレするように叫んだ健吾のから、鋭い衝撃音が響いた。
バシッ!!
義母が持っていた革のハンドバッグが、健吾の頬を容赦なく張りばしたのだ。
「ぐあっ!?」
よろめく健吾を見ろし、義母――富美子は、仁王ちのまま激しい気を含んだ声で言い放った。
「誰が族ですって? 私の族はね、ここにいるカナさんと美ちゃんだけよ。
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あなたのようなゴミ、私の戸籍からとっくに抹消したいくらいだわ!」
「お、お袋……! 実の息子の俺を殴るのかよ!?」
「殴るだけで済んでいるのを謝しなさい! あなたが連れ帰ったあの子はどうしたの!? 施設に預けっぱなしで、面会にも度もっていないそうじゃないの! 自分の血を分けた子ども責任持てない男が、どの面げてこの子たちのに現れたのよ!!」
富美子は迷わずスマートフォンを取りし、画面を健吾の先に突きつけた。
「先に連絡して、今すぐ接禁止命令の違反で警察を呼ぶわ。あと分でパトカーが来るわよ。刑務所ので、自分のをじっくり反省しなさい!」
「ひっ……! 警察……!?」
パトカーという単語を聞いた瞬、健吾の顔から血の気が引いた。 男はちがり、脱兎のごとく背を丸めて、夜ののへと逃げっていった。 度と、その姿を見ることはなかった。
「……怖かったわね、美ちゃん。丈夫よ、おばあちゃんがいるからね」
富美子が美を抱きしめると、美はしっかりと頷き、私のを握り直した。 の夜が、私たちのを清々しく吹き抜けていった。
あれから、さらに余の歳が流れた。
私――カナは、今で歳を迎えた。
美は都内の難関学を優秀な成績で卒業し、品メーカーの発職として就職が決まり、昨の、会社のくのマンションへ自して巣っていった。