"入学式の日、愛人を選んだ夫への「お祝い」" 第4話
「そんなわけないでしょう、ケーキよ」私も横から畳み掛ける。「のフルーツが凍ってるのかしら。もっと力を入れて、体を乗せてグッと押し込んでみて!」
「くそっ、見栄えだけの物買いやがって!」
健吾は両で牛刀の柄を握り直し、顔を真っ赤にして全体を刃先へと預けた。
ギリギリギリ……ッ! ミシミシッ……パキッ!!
クリームの奥底から、何か繊維が引きちぎられるような異音と、プラスチックか属が歪むような鈍い破砕音が、応えとして伝わってきた。
「ほら、切れたじゃない! もっと奥まで! まで気に振りろしなさい!」 義母の拍子が激しく鳴り響く。
「うおおおおっ!!」
健吾は半ばやけくそになり、牛刀を何度も何度も力任せに突き刺し、刃をに激しくノコギリのように往復させた。 純の美しいクリームが方方にび散り、ケーキの台が無残に崩壊していく。
そして、崩れ落ちたクリームと砕けた砂糖細の濘のから、ドロリと姿を現した「」を見た瞬――。
健吾のから、血の気の引いた牛刀が、カランと音をててへ転がり落ちた。
「……え?」
健吾の喉から、空気の抜けるようなけない掠れ声が漏れた。
崩れったケーキの残骸。 そこから現れたのは、スポンジでもイチゴでもなかった。
業用の質粘――とが混ざりった、カチカチに化する造形用クレイの塊だった。
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そして、その固な粘の内部に埋め込まれ、健吾が自らので滅切りにしたことによって、無残なスクラップと化していたのは――。
「あ……あ……あ……っ!?」
健吾は震える指先で、クリームと粘にまみれた残骸を掘り起こした。
最初に引きずりされたのは、健吾が先の料を全額注ぎ込んで購入したばかりの、イタリア製『エルメネジルド・ゼニア』のシルクネクタイだった。美しく織りげられた最級の布は、牛刀の鋭い刃によって無残に寸断され、ボロ雑巾のようにずたずたに切り裂かれていた。
次にてきたのは、学の卒業に父親から形見分けとして譲り受けたと自していた、ペリカンの限定品万。のペン先は見事にひしゃげ、胴軸のセルロイドは真っつに叩き折られて青黒いインクが粘のにドス黒く広がっていた。
さらに、粘の最部から転がりたのは――健吾がガラスケースに飾って毎磨いていた、ロレックスのサブマリーナーだった。 サファイアガラスの防には無数のクモの巣状のヒビが入り、牛刀の先端が直撃したベゼルは無残に歪み、秒針が狂ったようにプルプルと震えて止まっていた。
そして極めつけは、さなの破片。 の瑠奈から「お揃いでつけようね」とプレゼントされたばかりの、カルティエのカフスボタン。
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シルバーの台座からジルコニアが弾けび、ただの歪んだのゴミクズと化していた。
「な……なんだよこれ……! 俺の計……俺のネクタイ……! 俺の万がああああっ!!」
健吾はに膝をつき、クリームでベタベタに汚れた両でを抱えて絶叫した。
「おら……! おら、何をしやがったんだああああっ!!」
鬼のような形相でちがろうとする息子を、義母は酷極まりない差しで、仁王ちのまま見ろした。
「あら、何を喚いているの? 私たちは何も壊していないわよ。ナイフを握って、自分ので嬉しそうに切り刻んだのは、ならぬあなた自じゃないの」
「ふざけんな! こんな偽物のケーキを用しやがって! 罠に嵌めたんだろ!!」
「偽物って、最初から言えばよかったかしら?」 義母はややかにを鳴らした。 「これ、撮用の『クレイケーキ』って言うのよ。粘で台を作って、乾燥させてインテリアにするの。私の芸仲にお願いして、あなたの部から持ちした『宝物』を芯にして、特別に頑丈に固めてもらったのよ。……よく切れたわねえ、さすが男の力だわ」
「き、貴様ら……警察呼んでやる! 器物損壊だ! の財産を勝に壊しやがって!!」
発狂寸で喚き散らす健吾の先に、私はえ切った声で言葉を突き刺した。
「警察? どうぞ、今すぐ呼べばいいじゃない」
私はスマートフォンを健吾の目のにかざした。
画面には、録画ボタンが赤く点滅していた。