"一度も抱かれなかった娘" 第25話
裏返すと、拙い平仮名でこうかれていた。
『ぱぱ、いつもありがとう。さくらより』
「……咲良」 私はしゃがみ込み、メダルを受け取った。 胸の奥がくなり、界が滲む。
「パパに、くれるのか?」 「うん! せんせいがね、いちばんすきなひとにあげるんだよって言ったの。だから、パパにあげる」
咲良はそう言って、満面の笑みを浮かべた。 その笑顔には、もう何の翳りもなかった。 父親が過に犯した罪をりながら、それでも毎ご飯を作り、を繋いで歩いてくれた父親の々を、この子は歳なりので受け止めてくれていたのだ。
「ありがとう、咲良。……本当に、ありがとう」 私が咲良のさな肩を抱きしめると、咲良もさな両を私の首に回し、ぎゅっと抱きしめ返してくれた。 温かい、確かな子どもの体温が、私の胸を満たしていく。
そのだった。
「あ……」
咲良が、私の肩越しに、ぽつりと声を漏らした。 首に回されていたさな腕から、すっと力が抜ける。
私は腕を緩め、咲良の線の先を追った。
保育園の正の向こう。 を挟んだ向かい側の歩に、の女性がっていた。
初のに、し茶がかった柔らかな髪が揺れていた。 仕ての簡素な、洗いざらしのいブラウスに、紺のロングスカート。 化粧気のない横顔は、し痩せていたが、と変わらない、あの優しい面を残していた。
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茜だった。
茜は、の向こうから、園庭にいる咲良の姿をじっと見つめていた。 その両は胸のでく組みわされ、指先がくなるほど握りしめられていた。 粒の涙が、その頬を止めどなく伝い落ちていた。
声をかけることもできず、を踏み入れることもできず、ただくからが子の姿を目見るためだけに、静岡から何もに揺られてやってきたのだ。
「……咲良」 私はちがり、娘のさな肩にを置いた。 喉の奥が震えていた。
「っておいで」
咲良は、振り返って私を見げた。 そのきな瞳が、驚きと、戸惑いと、そして言葉にできない期待に揺れていた。
「……ママ?」 咲良の唇が、音もなくいた。
「うん。ママだよ」 私は咲良の背を、優しく、けれどしっかりとへ押した。 「ずっと、咲良に会いたかったんだよ。抱っこしたくて、たまらなかったんだよ。……っておいで」
咲良は、胸元のガーゼハンカチを両でぎゅっと握りしめた。 そして、歩、へ踏みした。
歩側の信号が、青に変わる。 初の眩しい差しのを、歳の女が、さなスニーカーの音を響かせて駆けしていく。
「ママ……!」
その叫び声が、青空へと吸い込まれていくのを、私はくから見つめていた。
横断歩を渡りきったところで、茜が崩れ落ちるように膝をついた。 両をきく広げた茜の胸のに、咲良のさな体が、吸い込まれるようにび込んでいった。
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の体がなり、固く、固く抱きしめわされる。 というすぎる空を埋めるように、つのがひとつに溶けっていた。
が吹き抜け、傍の々がサワサワと葉を鳴らした。 私はそれ以、づかなかった。 くで泣き崩れる元妻と、その首にしがみついて泣いている娘の姿を、ただ静かに見つめていた。
胸の奥に刺さっていた、たく尖った棘が、音もなく溶けて消えていくのをじていた。 失われたは戻らない。私が犯した罪が消えることもない。 これから先、親権のこと、面会のこと、乗り越えなければならない現実の壁はのようにあった。
それでも。 もう、嘘はいらなかった。
初のかなが、歩のになる母と子のを、優しく包み込んでいた。 私は目元を拭い、静かに息を吸い込んで、からしれた所で、ゆっくりと歩き始めた。