"一度も抱かれなかった娘" 第3話
その混乱の最、この類が当の担当助産師の個引きしに紛れ込み、カルテの正本に流しないまま保管庫へ送られてしまっていたのです」
望は茶封筒の紐を解き、から枚のを取りした。 の歳をじさせる、端がわずかに黄ばんだA4サイズの用だった。
「これは……」 私が問いかけるよりく、望はそのを私の目のに滑らせた。
の最部には、太いゴシック体でこう印刷されていた。
『母子同・直接授乳申請』
その文字を見た瞬、私の指先がぴくりと震えた。
「当院では当、産直の母体の回復を最優先するため、原則として産は児でお子さんをお預かりする方針を取っておりました」 望は、を排した淡々とした調で説を続けた。 「ただし、産婦さんご本の体調が良く、い希望があるには、助産師の許のもとでい段階から母子同や授乳の練習へ移することができます。そのために提していただくのが、この申請です」
私の線は、用の央に吸い寄せられた。 そこには、見慣れた跡が並んでいた。 しがりの、さくて真面目な文字。違いなく、茜の字だった。
【申請者氏名】相原 茜 【提】 午分 【希望内容】母子同および直接授乳の期始 【産婦記入欄・現の体調および希望】 『血も落ち着いており、歩も問題ありません。
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できるだけく抱っこして、おっぱいを吸わせてあげたいです。名もく呼んであげたいです。どうかよろしくお願いいたします』
文字の端々が、し震えていた。 だがそこには、産の痛みに耐えながら、が子に会いたいでペンをらせた母親のが、々しく残っていた。
、午分。 茜が病院から姿を消したとされるのは、翌朝の午頃だ。 つまりこれは、失踪のわずか半に、茜自がナースステーションに提したものだった。
喉がからからに渇いた。 界が急激に狭まっていくような錯覚を覚える。 「……これが、何だと言うんですか」 私は声を絞りした。自分の声が自然にく掠れているのが分かった。 「妻は、緒がおかしかったんです。警察にも言いました。子どもを見ようともしなかった、抱っこも拒絶したと。こんな類、何かの違いで……」
「相原様」 望助産師が、私の言葉を静かに遮った。 その声にはりも非難も含まれていなかったが、それゆえに逃げのないたさがあった。
「類の最部をご覧ください」
言われて、私は恐る恐る線を落とした。 申請の最段には、太い枠で囲まれた【医療関係者・ご族確認欄】があった。
そこには、赤いインクで『許』のゴム印が押されていた。 そして、その横の「理由」
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を記す備考欄に、黒い油性マジックで殴りきされた文字があった。
『族(夫)よりい拒否あり。産婦の精神疲労が著しいため、本の面会および児の引き渡しは切わないよう厳に申してあり。児は児にて隔管理を継続』
その横に並んでいたのは、病院側のサインではなかった。 承認印の枠に、歪な角度で捺された黒いシャチハタの印。
「相原」
そして、そのに震える跡で署名された、私自の名だった。
部の空気が、瞬にして凍りついたようにじられた。 壁の計が刻むチッチッという規則正しい音だけが、異様なほどきくの奥に響く。
「このの夜勤記録を、私はすべて読み直しました」 望が、鏡の奥から私をまっすぐに見つめた。 「午過ぎ、奥様はふらつくでナースステーションにいらっしゃいました。児のガラス越しに、ずっと咲良ちゃんを見つめて泣いていらっしゃいました。『度でいいから抱かせてほしい、触らせてほしい』と、私たちに何度もをげておられました」
私は何も言えなかった。 指先がえ切り、膝のに置いた両がカタカタと震えすのを、必に抑えつけることしかできなかった。
「ですがその直、相原様が病棟に駆け込んで来られたのです」 望の声が、く、痛烈に部を満たしていく。
「相原様は非常に興奮したご様子で、奥様のを無理やり引きし、病へ連れ戻されました。