"診察室に入れなかった私" 第16話
でした。
「確認しました! オペ、入ります!」
神医師が類をひったくるように回収し、叫びました。 ストレッチャーのストッパーがされ、凄まじい勢いで自ドアのへと滑り込みます。
い扉が閉まる直、私はに突っ伏して震える夫の背と、呆然とち尽くす義母の姿を、網膜の奥に焼き付けました。
度と、あなたたちのい通りにはさせない。 私は再び酸素マスクを元に当て、井の無灯を見げながら、識の底へと沈んでいきました。
「佐藤さん、聞こえますか? もうすぐ赤ちゃんがますよ!」
麻酔科医の静な声と、腹部をく引っ張られるような独特の圧迫で、私はれかけていた識を呼び覚ましました。
半の覚はありません。 けれど、術特の属の触れう音、モニターのアラーム、医師たちの緊迫したやり取りが、異様な解像度でにび込んできました。
「胎盤期剥、部血腫を形成しています。吸引急ぎましょう!」 「児、ます!」
計の針の音すら聞こえそうな、張り詰めた静寂。 次の瞬でした。
「ふぎゃあ……っ、ふぎゃあっ、おぎゃあああっ!」
さく、掠れていて、けれどどこまでもらかで力い産声が、え切った術を満たしました。
「産まれました! 午分、千百グラム、女の子です!」
児科のチームが斉に駆け寄り、処置台ので素いケアが始まりました。
広告
週という産。 さな体は赤黒く、まるでのひらに乗るほど頼りないものでした。 けれど、そのさな胸は、自力で必に空気を吸い込み、いていました。
護師さんが、タオルに包まれた赤ちゃんの顔を、私の元へと寄せてくれました。
「佐藤さん、よく頑張りましたね。お母さんの決断が、この子を救ったんですよ」
差しされたさな頬に、私は自分の唇をそっと触れさせました。 ほんのりと温かい、確かな命のぬくもり。
「……よ……かった……」
私の目尻から、い涙が止めどなく溢れし、術台のシートを濡らしました。 守り抜いた。 あの男の病な逃避からも、歪んだ族のエゴからも、私はこのさな命を、自分ので引きずり戻したのだ。
赤ちゃんは即座に保育器へと収容され、NICU(児集治療)へと運ばれていきました。 私は処置を受けながら、く、途切れることのない堵の眠りへと落ちていきました。
術目の午。 点滴スタンドを押しながら、私は病棟の廊をゆっくりと歩いていました。 帝王切の傷は焼けるように痛みました。歩踏みすたびに腹部に激痛がります。 けれど、その痛みすら、私にとっては「自分が決断して勝ち取った現実」の証のようにえて、誇らしくさえありました。
児科のフロアの奥、厳に管理されたNICUのガラス越しに、私はが子の姿を見つめました。
広告
保育器ので、全にチューブやモニターをつけられながらも、さなを折ピクピクとかしているが子。 神医師と児科の担当医からは、脳内血や篤な酸素脳症の兆候は見られず、肺の能も呼吸器の助けを借りて順調に推移していると説を受けていました。
「よくきててくれたね……」
ガラスに指先を触れ、さく呟きました。
背から、慮がちな、躊躇うような音がづいてきました。 振り返ると、そこには見違えるほどやつれ果てた健がっていました。
仕てのいいスーツは皺だらけで、無精髭が顎を覆っています。 いつもなら完璧にえられているなりが、完全に崩壊していました。 には、さな袋をぶらげています。
「千……」
健は私と目をわせることができず、線をに落としたまま、掠れた声で呼びかけてきました。
「傷……痛むだろ。歩いて丈夫なのか?」
「先から、しずつ歩くように言われているから」
私の声は平坦でした。 りも、憎しみも、親も交えない、たく乾いたビジネスライクな調。
健はその淡さに傷ついたように眉をひそめましたが、以のように声をしたり、自然な優しさで取り繕ったりすることはできませんでした。 あの術ので、自らのエゴと醜態を完全にのに晒してしまった男には、もう被るべき仮面が残っていなかったのです。