"夜勤明け、鍵を替えられた私の静かな反撃" 第8話
運転席に座るのは、管理会社業務課のチーフ・(歳)だった。髪交じりの髪に、皺の刻まれた実直そうな顔ち。その膝のには、さ数センチに及ぶ賃貸管理台帳のバインダーが置かれていた。
「さん。病院の総務課・佐々様より、正式な解約通ならびに社宅契約終に伴う即渡し請を受領いたしました」
はく落ち着いた声で、バックミラー越しに方を確認しながら言った。
「当物件は、医療法社団青葉会様との法包括契約となっております。法から『職員の退に伴う契約終』の通が提された点で、名義ならびに入居許のない第者が内に留まる法根拠は完全に消滅しました。……加えて、シリンダーの無断交換ですね」
の目元に、管理責任者としての厳しいが差した。
「マスターキーの無効化は、規約のな背信為であり、賃貸借契約の根幹を揺るがす違法為です。すでに所轄の警庁輪警察署域課へ通報し、ち退き請の会いを請してあります。もなく巡回の域課員が流するはずです」
「さん、ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません」
がをげると、は静かに首を横に振った。
「いいえ。ご自が激務ので締めされ、毅然と法な筋を通されたさんのご判断は、極めて静で確でした。
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に鳴り込んだり鍵を呼んでけさせたりしていれば、彼らは『夫婦喧嘩の環だ』と言い逃れをしていたでしょうから。……さて、計を」
が首の腕計を指し示した。
午分。
はの窓をわずかにけ、見げるようにして階の角部――〇号を見つめた。
居の掃きし窓からは、眩いばかりの蛍灯のかりが漏れしていた。 夕暮れが迫り、暗くなってきた周囲の部とは対照に、〇号だけはまるで何事もないかのように、豪奢なを放っている。
あのので、は今、何をしているのだろうか。 週末に買い込んだという級牛を蔵庫から取りし、テレビのバラエティ番組を音量で流しながら、がいつ泣きながらドアをノックするのかと、嘲笑混じりに待っているのだろうか。 エアコンは度設定で気を吹きし、リビングの照も廊のダウンライトもすべて点灯させたまま。 そのすべての気代が、自分の座から引き落とされると信じ込んで。
秒針が、無音で文字盤のを滑っていく。
午分秒。秒。
そして、午ちょうど。
プツン――。
まるで映画のフィルムが途切れたかのように、〇号の窓から溢れていたが、瞬にして消滅した。
隣の〇号も、の〇号も、周囲の灯も、すべてるく灯ったままだ。
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ただ〇号の窓だけが、ぽっかりと黒いインクを流し込んだような、完全な暗黒の角形へと変貌した。
直、の膝のにあったスマートフォンの画面が淡くった。 京力の送管理アプリからの通。
【吉沢様:ご指定の所における送止処理が正常に完いたしました(隔遮断完)】
「……切れましたね」
が静かに呟いた。
「はい。スマートメーターによる隔遮断です。これで、内のブレーカーをどれだけげ直そうと、流がミリも流れることはありません」
さらにその数分。 窓の隙から吹き込むたいに乗って、空から微かな声がってきた。
『おい! なんだよこれ! テレビが消えたぞ! 母さん、ブレーカー落としたのか!?』
拓也の、苛ちを隠せない濁った声だった。 もなく、カチカチと属のレバーを激しくげげするような音が、微かに響いてくる。 だが、どれほど分盤のレバーを操作したところで、本線からの供が物理に断たれている以、部にが戻ることは永にない。
続いて、バタバタと内をり回る音。 そして、キッチンのの蛇を力任せにひねる属音が、静かな夕暮れのに響き渡った。
『ヒッ……!? 拓也、がないわよ! 蛇からが滴もないじゃないの!!』
かず子の、裏返った切り声。