"夜勤明け、鍵を替えられた私の静かな反撃" 第1話
曜の午。の初の容赦のない朝が、の激務で充血し切った(みなみ・歳)の網膜をナイフのように鋭く突き刺していた。
取りは鉛のようにく、アスファルトを踏みしめるたびに膝が微かに笑う。 学病院の度救命救急センター――そこは文字通り、のとが秒刻みで交錯する修羅だった。夜から今朝にかけて運び込まれた肺止の症患者は名。胸骨圧迫のを緩めることなく続け、急速輸血のラインを確保し、呼吸器のアラームがけたたましく鳴り響く、血と消毒液の入り混じった々しい臭気を全に浴びながら、は文字通り命を削って現を駆け回っていた。
「さん、本当にお疲れ様。今はもう何も考えずに、のように寝てね」 「ありがとうございます……お先に失礼します」
同僚の労いの声に見送られ、ようやく辿り着いた自宅マンション。都の駅から徒歩分に位置する、オートロック完備の清潔なハイグレードマンションだった。 エントランスを抜け、エレベーターで階へがる。すれ違う隣のたちは、ゴミしを終えてやかに朝の挨拶を交わしていた。その当たりの、穏やかな常の景ので、自分だけが限界の淵にっている。
(秒でもく温かいシャワーを浴びたい。
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あのベッドに倒れ込んで、識を放したい……)
それだけを唯の希望にして、暗い共用廊を歩いた。〇号のにち、使い古したトートバッグの底から、慣れ親しんだのキーを取りす。 鍵穴に先端を差し込んだ。
カチャッ――。
属が擦れう鈍い触とともに、鍵が途で突っかかった。
「……え?」
押し込もうとしても、びくともしない。半分ほど刺さった位置で完全に固定され、無理に回そうと力を込めても、シリンダーはたく拒絶の姿勢を崩さなかった。 激しい魔と疲労で霞む目をこすり、はドアの横のプレートを凝した。 違いなく【吉沢】の表札が掲げられている。階数を違えたわけでも、隣の部と見違えたわけでもない。
もう度、キーを抜き差ししてみる。やはり入らない。 屈み込んで鍵穴の周りをよく見つめた瞬、の背筋にたいものがった。
鍵穴の属部分――シリンダーの縁が、自然なほどピカピカと輝いていた。 昨まで使われていたはずの、わずかな擦り傷が刻まれていたはずの古いシリンダーではなく、傷つない、取り付けられたばかりの品のディンプルキー用シリンダーが、無質にを反射していたのだ。
誰かが、業自らを呼んで鍵を取り替えた。
その異常な事実を脳が処理しきれず、がち尽くしていたそのだった。
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のポケットに入れていたスマートフォンが、ブブッ、とく振した。
画面を点灯させると、同居している義母・かず子からのメッセージ通が表示されていた。 そこに並んでいた文面を読んだ瞬、の全の血が、音をてて逆流した。
『鍵業者を呼んで、しく変えておいたから。 事もろくにせずに夜勤にくような気な嫁への罰よ。しはでをやして、反省したら座して謝りに来なさい。 拓也もおには度きちんとした躾が必だと言っているわ。 今頃で泣いているんでしょうけど、反省のが見えるまで、しばらくそこにっていなさい』
文字の暴力が、疲弊し切ったの界を埋め尽くした。
昨夜、自分がどんないで患者の胸を押し続けていたのか。 術ので涙を流しながら祈る族のを握り、どれほどの極限状態で命を繋ぎ止めてきたのか。 そんな医療従事者としての誇りも、の尊厳も、この義母にとっては「事をサボってをほっつき歩いているだけ」の為に過ぎないのだ。
夫の拓也(歳)は、定職にも就かず、フリーター同然でに引きこもっている。 「資格の勉をするから」と結婚当初に交わした約束はとうに反故にされ、ゲームと怠惰に溺れる夫と、その息子を盲目に甘やかす義母。
の活費、費、果てはこの級マンションの居費に至るまで、すべての過酷な夜勤当と護師の料で賄われていた。