"義母の合鍵が入らない" 第20話
喉を鳴らしてをみ干す彼の姿を見つめながら、私は部の隅の段ボール箱に目をやりました。
荷物はまだ、詰められたままです。 けれど、固く閉ざされていたこのの「本当の扉」が、今、わずかに音をててき始めたのを、私は確かにじていました。
あの曜の夜、健がに崩れ落ちてから、私たちは夜のを過ぎるまでリビングで言葉を交わしました。
健が母親のアパートから持ち帰った桐の箱は、ダイニングテーブルの真んに置かれたままでした。以、母親の庫ので切に保管されていたという、息子の通帳、実印、母子帳。それは健にとって、自らの半を縛り付けていた鎖の現物であり、母親にとっては息子を自分の所物として繋ぎ止めておくための、目に見える臍の緒そのものでした。
私は、泣き腫らして目を真っ赤にした健の向かいに座り、めた湯をみました。
「健さん。あなたが今、お義母さんの病に入らず、自分の類を取り戻してきたことは、きな歩だとう」
私の声に、健はビクッと肩を震わせ、恐る恐る顔をげました。
「でもね」と私は続けました。「これで全部が解決したわけじゃないのよ。鍵を変えて、親戚のグループを抜けて、過の類を取り返した。
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それはただ、マイナス百だった状態が、ようやくゼロのスタートラインにっただけ。ここから先、あなたがどうやっての独したとして母親と向きうのか、私にはまだ分からない」
「……わかってる」
健は掠れた声で、さく頷きました。
「俺は、数ずっと、母さんの嫌から逃げることだけを考えてきてきた。母さんが声を荒らげたり、涙ぐんだりすると、のが真っになって、とにかく謝ってそのを収めることしかできなかった。……その癖が、から急に消えるとはってないよ」
健は自分の震える両をじっと見つめました。
「でも、由を失う恐怖をわった……俺ので、何かが完全に壊れたんだ。母さんの嫌を取るために、番切なはずのおをに沈めていた自分に、底吐き気がした。……もう、あんな惨めな男には戻りたくない。どうすればいいのか、教えてほしい。俺とおのに、どうやって境界線を引けばいいのかを」
その言葉には、かつてのような甘えや責任転嫁の響きはありませんでした。 彼はようやく、自分ので自分のを引き受ける覚悟を決めたようでした。
私はちがり、器棚の引きしからしいノートと本のボールペンを持ってきました。 そして、いページの真んに本の縦線を引きました。
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「ルールを決めましょう。私たちが、こので対等に、して暮らしていくためのルールよ」
その夜、私たちは夜の静寂ので、つひとつの条項を丁寧に言葉にし、ノートにき留めていきました。
、このマンションのしい暗証番号は、由と健のだけで管理し、いかなる理由があっても親族に示しないこと。 、義実からの訪問は、最でもまでに連絡を受け、夫婦双方がしたのみ受け入れること。抜き打ちの来訪には、玄関のドアをけないこと。 、部の具、用品、品の配置や購入は、すべてこのにむ夫婦の裁量で決定し、部からの持ち込みや模様替えは切拒否すること。 、義母や親戚から由に対する当な求や非難があった、健が責任を持って矢面にち、由を盾にしないこと。 、義母との関係に摩擦がじても、健は「庭の平」を名目に由にや謝罪をしないこと。
き終えたノートを、私は健のに差ししました。 健はそこに並んだ文字を、ずつ、噛み締めるように指でなぞりました。
「……サインするよ」
健は震えるでペンを握り、ページの部に自分の名を力くき込みました。 私もその隣に、自分の名をきました。
けれど、部の隅に積まれたつの段ボール箱は、そのままにしておきました。
産に預けた万円の申込も、まだ解約の連絡は入れていませんでした。