"義母の合鍵が入らない" 第9話
そして、部のから「私のもの」だけを、淡々と仕分け始めました。
結婚したに買い揃えた、欧デザインの麻のクッションカバー。 休にで読もうと集めていた、文庫本や専の。 私が益子焼の陶器で目惚れして買った、私専用のマグカップとコーヒードリッパー。 ソファに掛けていた、肌触りのいいカシミアのブランケット。 窓辺に置いていた、さな観葉植物の鉢植え。
それらをつひとつ、緩衝材で包み、段ボールのへ丁寧に収めていきました。 私の痕跡が消えていくにつれて、リビングは急速にそのを失っていきました。
残されたのは、義母が選んだアイボリーの柄なカーテン。 義父の形見だという黒りする仏壇のような飾り棚。 そして、義母が持ち込んだ、賞期限の怪しいタッパーの。
かつて私と健が「の暮らし」を見てえた部は、いまや完全に、義母の趣と健の怠惰によって支配された「実の延」に成り果てていました。
夕方、荷物を詰め終えたつの段ボールにガムテープを貼りました。 箱の横に黒いマジックで『由・私物』とき、部の隅、あのでし板が毛羽ってしまったウォールナットの机の横に並べました。
そして私は、ダイニングテーブルのにつの類を並べました。
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枚は、先ほど産で受け取った、マンションの入居審査申込の控え。 もう枚は、私がこのヶ、スマートフォンのメモ帳に記録し、昨夜プリントアウトした枚のA4用でした。
タイトルは、付けませんでした。 ただそこに並んでいるのは、このに起きた、具体な付と事実の羅列でした。
夜の半、玄関の鍵がガチャリと回る音がしました。
「ただいまー。いやあ、今はスコアが散々でさ。最のりホールでバンカーにハマっちゃって……」
ゴルフバッグを担いだ健が、リビングの引き戸をけながら入ってきました。 焼けした顔に、汗とアルコールの匂い。 けれど、彼の能気な声は、リビングにを踏み入れた瞬に途切れました。
いつもならテレビの音が鳴り、夕の汁のりが漂っているはずの部が、暗く静まり返っていたからです。 そして何より、部の空気が、まるで引っ越し当のようにがらんとしていました。
「……由? どうしたんだよ、気もつけないで」
健はゴルフバッグをにろし、壁のスイッチを押しました。 い蛍灯のが部を照らしします。
彼の線が、部の隅に積まれたつの段ボール箱と、何もないすっきりとしすぎたソファ、そして棚のの空へと泳ぎました。
「なにこれ……掃除でもしたのか?」
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健は引きつった笑みを浮かべ、冗談めかして言いました。 けれど、その声がわずかに擦っているのを、私は聞き逃しませんでした。
「座って、健さん。話があるの」
私はダイニングテーブルの子を指差しました。 テーブルのには、めた麦茶を入れたグラスがつと、あの枚のが置かれていました。
健は靴を脱ぎ捨て、怪訝そうに眉を寄せながら私の向かいの席に腰をろしました。 テーブルののに線を落とした瞬、彼の表が張りました。
『賃貸借契約入居審査申込』 借主氏名:佐藤由。 入居予定:来週曜。
「……これ、何?」
健の声から、先ほどまでのるさが完全に消えっていました。
「見ての通りよ。会社から駅のところに、部を借りたわ。来週の曜に、荷物を運びす配も済ませてある」
私はを交えず、淡々と告げました。
「は……? 部を借りたって……別居するってことか? なんでだよ!?」
健はを乗りし、机を叩くように両を置きました。
「がわからないよ! 先の机のことなら、俺も悪かったって謝っただろ!? 母さんもあれ以来、うちに来てないじゃないか! 落ち着いてうまくやってるとってたのに、なんでいきなりこんな極端なことするんだよ!」
「落ち着いてうまくやっていたのは、あなただけよ」
私は静かに、もう枚のA4用を彼の方へと押ししました。
「これを読んで」
健は苛ったようにそのをひったくりました。