"義母の合鍵が入らない" 第1話
「あなた、最なんだか顔が悪いわね。し緒が定なんじゃない?」
曜の昼がり、淹れたての麦茶をテーブルに置きながら、義母はごく自然な仕でそう言いました。
私と夫の健が暮らすこのマンションのリビングには、穏やかなの差しが差し込んでいました。けれど、義母のその言が落ちた瞬、部の空気がわずかにたく引き締まったのを、私は肌の表面でじ取っていました。
「仕事、忙しすぎるんじゃないの? そんなに疲れていたら、鍵をなくしたり、ので倒れたりしたら変でしょう。万がのことがあったら危ないから、このの鍵は私が預かっておくわね」
義母はそう言って、リビングのローボードの鍵置きにを伸ばしました。 そこには、真鍮のさなキーリングに、私が京都の旅で見つけて買ったキャメルの革のタグがついた鍵が置かれていました。
私は息を止め、テーブルの向かいに座る夫を見ました。 健はスマートフォンでプロ野球の速報記事を眺めたまま、顔をげようともしませんでした。彼にとって、それは休の昼がりに交わされる、どうでもいい常会話のひとコマに過ぎないようでした。
「お義母さん、丈夫です。失くしたこともありませんし、鍵はここに置いておかないと、急なに――」
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私が言い終わるに、健がようやくスマートフォンから線をげました。けれどその線は、私を守るためではなく、面倒な空気をく終わらせるためのものでした。
「いいじゃないか、由。母さんの言う通りだよ。俺たちとも平は遅くまで働いてるんだし、所にんでる母さんが持ってた方がだろ。母さんも配してくれてるんだから、そんな角をてるなよ」
健の声は、いつものように穏やかで、聞き分けのいいトーンでした。 彼はいつもそうでした。母親と私のにわずかでも摩擦が起きそうになると、決まって「配してくれている」「悪気はない」「角をてるな」という言葉で、私の元だけを削り取っていきました。
義母は満そうに微笑み、キャメルの革タグがついた鍵を指先に引っかけました。 そして、自分のハンドバッグの奥く、ファスナーのついた内ポケットへと滑り込ませました。 パチン、と具が噛みう乾いた音が、静かな部に響きました。
私はそれ以、何も言いませんでした。
叫びもしなければ、夫に抗議の線を送り続けることもしませんでした。結婚して。こので私が学んだもっとも無駄な為は、健ので義母の越境を訴えることだったからです。
「じゃあ、これでね。由さん、たまにはゆっくり休みなさいよ」
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義母は何事もなかったかのように麦茶をみ干し、お気に入りの菓子の袋をテーブルに残して帰っていきました。 玄関のドアが閉まるたい音を聞きながら、私は空になった鍵置きの皿を見つめていました。
真鍮の鍵がそこにあった所には、うっすらと丸い埃の輪が残っていました。 私たちがでをしい、で選んだ具を並べたこのの防御壁が、音もなく、たった言で突破された瞬でした。
結婚活の、健は度も私に暴力を振るったことはありませんでした。 浮気をしたこともなく、ギャンブルに溺れることもなく、毎決まった活費を座に入れ、会社では真面目な堅社員として通っていました。
周囲の友は皆、を揃えて「健さんは優しくて穏やかで、本当にいい旦さんね」と言いました。 私の母でさえ、「健さんは鳴ったりしないからね」と微笑んでいました。
けれど、私だけがっていました。 彼の「優しさ」の正体が、単なる「衝突からの逃」であることを。
結婚目の正、義実へ帰省したのことです。 義母は私が持参した産の菓子を瞥もしないまま棚の奥へ押しやり、「うちは代々、正に菓子なんて品なものはさないのよ」と言い放ちました。さらに、私が伝おうとする台所から私を押しし、親戚が見ているで「由さんは座っていていいのよ、包丁の使い方も怪しいし」