"母は死んだと書いた娘" 第17話
「朋代さん……? 何してるの……?」
「引き裂いたわ」 私は徹なまでの静けさで言った。 「養子縁組届よ。こんなもの、最初から切れに過ぎない。お父さんが何を言おうと、世がどう見ようと、関係ない。私は絶対に、この類を役所にさせない」
ドアの隙、部のわずかな空から、私は引き裂いた類の破片を、枚、また枚と部のへ滑り込ませた。 のように、い吹が葵の元へとい落ちていく。
「葵。私は、あなたのお母さんにはならない」
私の言葉に、部のから息を詰める音が聞こえた。
「志保さんの席を奪う気なんて、最初からミリもないわ。あなたのお母さんは、世界にただ、志保さんだけよ。それは過でも、今でも、この先、誰にもきなんてさせない」
涙が頬を伝った。けれど、私の声には片の迷いもなかった。
「私は、浅井朋代よ。あなたのお父さんと結婚した、ただの同居で……あなたの成を隣で見守るのが好きな、ただの。それで分じゃない」
沈黙が落ちた。 部のからは、ハラハラと落ちた屑を拾いげるような、かすかなカサカサという音だけが聞こえていた。
「母と呼んでくれなくていい。族の類に、私の名をかなくていい。ただ……お腹が空いたら、私の作ったご飯をべて。寒かったら、私が編んだマフラーを巻いて。
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テストのには、私のメッセージを読んで。……んだお母さんに謝りながらべるのは、もう今でおしまいにしなさい」
私はドアの肌を、おしむように掌で撫でた。
「あなたはね、誰かをしてもいいの。美しいものを美しいとっていいの。それで志保さんが消えたりなんて、絶対にしない。私が、あなたと緒に、志保さんのことをずっと覚えていてあげるから」
その瞬だった。
部のから、堰を切ったような、凄まじい号泣が響き渡った。 歳の女が、分の呪縛から解き放たれ、魂を絞りすように泣き叫ぶ声だった。
「うわああああん……っ! 朋代さん……っ、朋代さん……っ!」
ガタガタと内側の鍵がされる音がした。 勢いよくけ放たれたドアの向こうに、涙とで顔をぐしゃぐしゃにした葵がっていた。 そのには、私が引き裂いた養子縁組届の破片が、くしゃくしゃに握りしめられていた。
葵は倒れ込むように、私の胸にび込んできた。 骨が軋むほどのい力で、私のコートを掴み、胸元に顔を埋めて泣きじゃくった。
「ごめんなさい……っ! 酷いこと言って、ごめんなさい……っ! 私、朋代さんのこと、本当は……っ!」
私は、震える葵のさな体を、両腕でしっかりと抱きしめた。 柑橘系のシャンプーの匂い。 、私が守り続けてきた、おしい命の温もり。
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「いいのよ、葵。もう、謝らなくていい」
私は彼女の背を、何度も、何度も優しく擦った。 母親としてではない。 ただ、この女の痛みを分かちう、のとして。
階から、文恵さんが静かにがってくる音がした。 階段の踊りにった文恵さんは、抱きって泣く私たちの姿を見て、にしたハンカチを目元に押し当て、く、くをげていた。
窓のでは、く垂れ込めていたのが切れ、晩の柔らかなが、の元に散らばった屑をく照らししていた。
けれど、これで終わりではなかった。 京には、まだ自分の過ちに気づかず、虚飾のを守ろうと待ち構えている康平がいる。 、私たちはあのへ戻らなければならない。 そして、今度こそすべてに決着をつけるのだ。
私と葵の、本当の活を取り戻すために。
幹線の窓のを、暮れなずむ富士の裾野がぶように過ぎっていく。
座席の隣で、葵はさな袋を両で抱え込んだまま、静かに眠っていた。 その袋のには、祖母の文恵さんから渡されたき志保さんの記と、私が引き裂いたあの『養子縁組届』の破片が、すべて切に収められていた。
折、内灯のが葵の横顔をく照らしす。 泣き腫らして赤くなった瞼には、まだ乾ききらない涙の跡がっていた。
けれど、今朝までの張り詰めた、何かに怯えるような険しさは消えていた。 、あの子のさな肩を押し潰し続けていた呪縛が、ようやくしだけそのさを緩めたのだ。